キャッシュフロー表に企業の経営姿勢が表れる

 キャッシュフロー表をみると、企業の経営姿勢がわかります。具体例として、ニトリHD(9843)の前期(2022年2月期)キャッシュフロー表を見てみましょう。

ニトリHDの2022年2月期キャッシュフロー表

出所:同社2022年2月期決算短信、億円未満切り捨てなのでトータルが合わないことがある

 上記でわかることを、ざっくり解説すると以下の通りです。

 ニトリは、本業(営業CF)で855億円キャッシュを稼いだ(増やした)が、将来のための投資など(投資CF)でキャッシュを1,199億円使った(減らした)。主に負債を増やすこと(財務CF)で177億円キャッシュを増やした。以上三つのトータルでキャッシュを166億円減らした。

 これを見ると、ニトリの資金繰りがどうなっているかわかるだけでなく、同社の経営姿勢がわかります。

 安全運転の企業は、本業で稼いだキャッシュの範囲内で、投資をします。つまり、営業CFのプラスが、投資CFのマイナスよりも大きくなるようにします。そうすれば、余ったお金で負債を減らせることもあります。

 ところが、成長のために積極投資する企業は、営業CFを上回る投資をします。それが2022年2月期のニトリです。同社が成長のために積極投資をしていることがわかります。

 このように、営業CFと投資CFの大きさを比較することで、企業の経営スタンスが見えます。

キャッシュフローから選ぶ投資の参考銘柄:セブン&アイ

 キャッシュフローに将来の成長期待がこめられていると私が見ているのが、2022年2月期のセブン&アイHDです。

セブン&アイHDの2022年2月期キャッシュフロー表

出所:同社2022年2月期決算短信、億円未満切り捨てなのでトータルが合わないことがある

 セブン&アイHDは、本業で7,364億円のキャッシュを稼いでいますが、投資CFが2兆5,055億円もの巨額のマイナスとなっています。そのため、負債を増やすことなどで9,370億円キャッシュを得ていますが、トータルCFは8,320億円のマイナスです。

 投資CFがこんなに大きなマイナスとなったのは、米国で「スピードウェイ」ブランドのコンビニエンス事業を買収するためです。私は、高収益の米国コンビニ事業の成長を加速させる、とても良い投資だと思います。金額が大きいのでリスクが大きいと言うこともできますが、私は、同社が得意とする投資で、堅実な投資だと評価します。

 セブン&アイHDにはかつて、国内のコンビニ事業が高収益なのに米国のコンビニ事業が低収益だった時代があります。そこから、米国のコンビニを日本型に変えることで、高収益事業に変えた実績があります。

 そのノウハウを使って、スピードウェイを高収益事業に変えていくことができると予想しています。スピードウェイの買収は、米国コンビニ事業の成長を加速させる良い投資だと思います。

 セブン&アイHDには、もう一つ良い話があります。同社グループの収益の足をひっぱってきた百貨店事業(そごう西武)の売却のめどがたちつつあると報道されていることです。先行きどうなるかまだわかりませんが、売却が実現すると、同社グループの構造改革として高く評価できます。

 不振が続くそごう西武の売却も、米「スピードウェイ」の買収も、同社グループの価値を高める構造改革として高く評価できます。

 以上を勘案し、セブン&アイHDは内外のコンビニ中心に成長を続ける企業として投資していく価値は高いと判断しています。

キャッシュフローから選ぶ投資の参考銘柄:武田薬品

 同じく、キャッシュフロー表から投資価値が高まっていると判断できるのが、武田薬品工業です。以下、2022年3月期のキャッシュフロー表をご覧ください。

武田薬品工業の2022年3月期キャッシュフロー表

出所:同社2022年3月期決算短信、億円未満切り捨てなのでトータルが合わないことがある

 上記のキャッシュフロー表から、同社の有利子負債を削減する構造改革が順調に推移していることがわかります。本業(営業CF)で1兆1,231億円もキャッシュを稼いでいますが、投資CFで使っているのが1,981億円だけなので、余ったキャッシュで負債を大幅に削減できています。これで高配当利回り株としての、信頼性が高まったと判断できます。

 武田薬品は、7月6日時点で予想配当利回りが4.7%(1株当たり配当金会社予想180円を7月6日株価3,862円で割って算出)と高いことが魅力です。同社は、配当方針として、有価証券報告書にて、1株当たり180円以上を維持する方針を示しています。実際に、過去10年以上、1株当たり180円の配当金を出してきています。

 ただし、連結1株当たり利益が180円未満のことが多く、連結配当性向が高過ぎる(収益対比で配当を出し過ぎている)ことが不安材料となっていました。

 成長のために巨額の買収を繰り返し、有利子負債が拡大したことが連結収益を圧迫してきました。特に、2019年に6兆円超をかけてアイルランドのシャイアー社を買収したことで有利子負債が拡大したことが、不安材料となっていました。

 ところが、2022年3月期のキャッシュフロー表からもわかる通り、武田薬品はその後、本業などで稼ぐキャッシュで負債の削減を順調に進めてきています。シャイアー社の買収で、武田薬品は希少疾患の治療薬で豊富なラインナップを獲得することができ、今後の成長期待が出てきています。

 キャッシュフロー表を見ると、順調に負債削減が進んでいることがわかります。高配当利回り株として、武田薬品の投資価値が高いとの判断を継続します。

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