前回の本連載で取り上げた、岸田文雄政権初となる「新しい資本主義」の実行計画と経済財政運営の方針(「骨太の方針」)が6月7日に閣議決定されました。

 預貯金に偏る個人金融資産を投資に振り向け、経済の活性化を目指す「資産所得倍増プラン」について、岸田総理は「複数年度にわたる具体的なプランを本年中に策定し実行する」と明言しました。

 目玉政策の一つである、iDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度)の改革案にも期待が高まります。そこで、今回の「投資信託のツボ」は、前回に引き続き番外編として、投資の意義について掘り下げたいと思います。

 本連載を含めトウシルをご覧いただいている皆さんは、以前から投資の必要性を感じていたと思われます。しかし、「投資」という単語そのものに拒否反応を示す方がまだまだ多いことも事実です。

 実際に、筆者の元にもよく「家族に資産形成を勧めたいが、聞く耳を持ってもらえない。どうしたらよいか。」といった相談が寄せられます。

 目に見えてモノやサービスの値段が上がり、急速に円安が進んでいる今こそ、ご家族や身近な人に投資の意義を伝えるよいタイミングと言えるかもしれません。

投資をする理由=お金が時代に取り残されないため

 投資=資産運用によってお金を増やす理由は簡単です。「お金が時代の流れに取り残されないため」です。これは、モノやサービスの値段が上がるインフレーション(インフレ)への対処だけでなく、為替変動への対応も含まれます。もう少し詳しくご説明しましょう。

 冒頭の閣議決定と時を同じくして、為替市場では、約20年ぶりの円安水準を更新しました。円安とはつまり、円の価値が低くなることです。

 例えば、元々100円で購入できた海外製品が、130円払わないと購入できなくなることを意味します。海外で製造されたさまざまなモノに囲まれて生活を送る現代社会において、輸入物価の押し上げに直結する円安の進行は、私たちの生活コストを直撃します。

 実は、主要通貨に対する円安の進行は今に始まったことではなく、2021年も、円が米ドルに対して10%以上下落しました。(2021年の年初のドル/円は、1ドル103円台でした。)

 ここに来て加速するモノとサービスの価格上昇は、一連の原材料高や物流コストの上昇を、企業努力だけで吸収できなくなったことの表れでもあります。

 一方、足元数年の間につみたてNISAやiDeCoを通じて米国株などの外貨建て資産に投資する投資信託を購入していた人は、単に株価上昇の恩恵を受けられただけでなく、通貨価値が高い外貨ベースで資産を確保することもできました。

 このように、今の時代においては、海外旅行や留学を検討していなくとも、資産の一部を外貨で保有しておくことが重要になっています。

投資は貯蓄がないとやってはいけない?

 前回も少し触れましたが、昨今の物価高の影響も相まって、このたびの「資産所得倍増プラン」が国の策略であるかのような印象を与えかねない、との報道が一部であります。

 あるいは、「投資(=損失)を被る可能性がある=金銭的に余裕がないとできない」という前提で議論が繰り広げられているのも気になるところです。

 その一例が、JNNが行った世論調査と、その内容を伝える報道に表れています。

JNNが、全国18歳以上の男女2,528人を対象にした世論調査で、「今後、貯蓄を投資に回そうと考えるか」を聞いたところ、「投資に回す貯蓄がない」と答えた人は34%いた。

  • 投資に回そうと思う…23%
  • 投資に回そうと思わない…40%
  • 投資に回す貯蓄がない…34%

 繰り返しになりますが、投資は「お金が時代に取り残されないため」に行うものです。

 投資信託は今や100円から購入できるので、お給料などのキャッシュフローから毎月一定額を投資に回すことで「時代に取り残されない」形での貯蓄を実現できると同時に、冒頭で触れた経済の活性化にも一役買うことができます。

 もちろん、投資には不確実性=リスクがつきものですから、時間分散と資産分散を組み合わせるなどして、リスクとの付き合い方をマスターしていく必要はあります。

 もし皆さんの周りで、今回の「新しい資本主義」と「資産所得倍増プラン」について不安に思われている方がいたら、今私たちが置かれている状況を一つずつひもときながら説明することが大切だと思います。

 本連載「投資信託のツボ」では、今後も投資信託の活用方法を中心に資産形成に役立つ情報をさまざまな角度からお届けします。バックナンバーも含めぜひご活用ください。