昭文社は「成長の3条件を満たしている」と思い込んだ
小型成長株に投資する時、私は、なるべく実際に取材して、企業内容をよく理解してから投資することにしていました。当時は、年間、200社あまりの企業を取材して投資先を選んでいました。昭文社も、そうして実際に取材して選んだ銘柄です。
私は、成長株として投資を実行する前に、3つの条件をチェックしていました。
<成長の3条件>
(1)市場の成長性が高い
(2)市場シェア(占有率)が高い
(3)参入障壁が高い
2番目までの成長条件(高成長市場で高シェア)を満たす株は、けっこうたくさん見つけることができます。ただし、3番目の条件(参入障壁が高い)まで満たす株は、簡単には見つかりません。
今までなかった新しいネットサービスを始め、需要が急増しているIT企業があると、投資家はそれを成長株としてもてはやします。そうなると、株価が大きく上昇します。ただし、その後が問題です。よくあるのは、新規参入が増えてあっという間に過当競争になり、利益が稼げなくなることです。そうなると株価は暴落します。
参入障壁が低いビジネスで成長できる期間はとても短くなっています。だから私は、成長株の調査を行う時、3番目の条件(参入障壁が高い)が満たされるかを、念入りにチェックします。
3つの条件を満たしている安定成長株を、具体例でお話しします。東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは、分かりやすい安定成長株の実例です。テーマパークの利用者は安定的に拡大し、近年は海外からの観光客も増加しています。中でも、東京に近い立地を押さえ、他社がまねできない独自の施設・サービスを作り上げた東京ディズニーリゾートは、長い年月テーマパークで独り勝ちが続きました。1日入場券を継続的に値上げしてこられたことも、好不況の影響を受けにくい安定成長に寄与してきました。
好立地を押さえ、他社がまねできないテーマパークを作り上げたことで、参入障壁の高い安定成長ビジネスになっています。
昭文社の話に戻ります。昭文社は、2000年当時、出版ビジネスをメインとしていましたが、新規に電子地図ビジネスを始め、成長させる意欲を持っていました。株式市場では当時、昭文社を、コンテンツ関連株(インターネット上で需要が拡大するコンテンツを供給する会社)として期待していました。
出版ビジネスは、将来的に徐々に縮小していくと懸念されていましたが、代わって電子地図事業が急成長すると期待されていました。そこで、私は昭文社に取材に行きました。電子地図事業が3つの成長条件を満たしているか、調べるためです。
その時の取材で私が出した結論は、以下のようなものです。
(1)電子地図の需要は将来、急増する(カーナビに採用されると大きいと期待されていた)
(2)市場シェアが高い(当時、きちんとした電子地図を作れるのはゼンリン・昭文社の2社だけだった)
(3)参入障壁も高い(国土地理院の地図を買ってきて電子化するだけなら誰でもできる。ただし、全国に調査員を置いて、地図に出ていない情報の書き込みや、再開発による地図の修正をきめ細かに実施しているのは、ゼンリン・昭文社の2社だけだった)
3つの成長条件を満たす企業と確信してから、買い出動したために、昭文社の株価がずるずる下げ続けていても、売りが実行できませんでした。
昭文社は、電子地図ビジネスで稼ぐことができなかった
昭文社は、前期(2020年3月期)まで4期連続で営業赤字を計上しています。今期(2021年3月期)も営業赤字となる可能性があります。わずかな黒字か赤字を繰り返す構造不振企業となってしまいました。同社の電子地図は成長せず、出版事業は縮小を続けました。私の判断の何が間違えていたのでしょうか?
(1)電子地図の需要は急拡大しました。ただし、もっとも有望だったカーナビでの採用は、ゼンリンに先を越されました。
(2)シェアは高いままだったと思います。参入障壁もそれなりに高かったはずです。全国に調査員を置いて、地図を修正することも、誰もができることではありません。
ところが、昭文社は電子地図で大もうけすることはできませんでした。ネット上で、無料の電子地図がいくらでも利用できる時代になったためです。昭文社は、自らが持つ貴重な電子地図データを囲い込んで大もうけすることなく、安価な価格でネットでの使用を認めてしまいました。そのおかげで、利用者は自由に電子地図を使える恩恵を受けられるようになりましたが、昭文社は利益を拡大することができませんでした。