※この記事は2020年7月28日に掲載されたものです。

すばやい損切りを徹底していたのに、半値になるまで売れなかった昭文社

 このコラムではときどき、私が25年間、日本株ファンドマネージャーをやってきた経験から、個人投資家の皆様に役立つと思う話を選んで紹介しています。今日は、私が成長株投資で大失敗した話をご紹介します。

 こうしたコラムでよく、大成功した話を紹介する人がいます。私も、いろいろうまく売買した話をしたくなることもあります。ただし本当に役に立つのは、大成功した話より、大失敗した話だと思います。大失敗をなくすことが、長期的な資産形成に重要だからです。なぜ失敗したか、実例を知ることが役立つはずです。

 私は、20代から始めて50代になるまで、1,000億円以上の日本株ファンドを運用していました。大型の割安株を中心にポートフォリオを組みながら、小型成長株に分散投資していました。

 大型割安株では、堅実経営で安定的に高収益を上げているにもかかわらず不人気で、株価が割安になっている銘柄を選んで投資していました。じっくり長期投資して、投資価値が見直されるのを待つ戦略です。

 一方、小型成長株では、投資テーマに乗り、短期的な株価上昇が期待できる銘柄を選んでいました。小型成長株は、値動きが荒いので、失敗したら早めの損切りを徹底していました。保有している小型成長株が突然、急落する時は、理由を考える前に、問答無用の売りを出していました。理由は後から分かることが多く、分かってから売っていたのでは、遅すぎるからです。

 すばやく損切りすることに自信がありましたので、勢いよく上がっていく成長株に飛び乗ることもできました。高値づかみと気づいたら、すばやく売ることを徹底していたことが、長期的な好パフォーマンスを維持するために重要でした。したがって、投資した小型株が半値になるまで持ち続けることは、ほぼあり得ませんでした。

 ところが、そんな私が小型成長株で大失敗したことがあります。それは、2000年に投資した昭文社HD(9475)です。値下がりが続き、半値になるまで保有を続けてしまいました。ただ持っていただけでなく、下がる過程で何回か買い増しし、最後にまとめて損切りする時、大きな損失が出ました。「下がる小型株は、問答無用で損切り」を信念としていた私としては、とんでもない失態です。

<昭文社(9475)の株価推移:1999年3月~2001年12月>

(注:筆者作成)

 なぜ、私はずるずる値下がりが続く昭文社株をすぐ売らなかったのか? 昭文社が、将来大きく成長すると確信していたことが敗因です。思い込みが激しかったので、間違いに気づくのに時間がかかりました。

昭文社は「成長の3条件を満たしている」と思い込んだ

 小型成長株に投資する時、私は、なるべく実際に取材して、企業内容をよく理解してから投資することにしていました。当時は、年間、200社あまりの企業を取材して投資先を選んでいました。昭文社も、そうして実際に取材して選んだ銘柄です。

 私は、成長株として投資を実行する前に、3つの条件をチェックしていました。

<成長の3条件>
(1)市場の成長性が高い
(2)市場シェア(占有率)が高い
(3)参入障壁が高い

 2番目までの成長条件(高成長市場で高シェア)を満たす株は、けっこうたくさん見つけることができます。ただし、3番目の条件(参入障壁が高い)まで満たす株は、簡単には見つかりません。

 今までなかった新しいネットサービスを始め、需要が急増しているIT企業があると、投資家はそれを成長株としてもてはやします。そうなると、株価が大きく上昇します。ただし、その後が問題です。よくあるのは、新規参入が増えてあっという間に過当競争になり、利益が稼げなくなることです。そうなると株価は暴落します。

 参入障壁が低いビジネスで成長できる期間はとても短くなっています。だから私は、成長株の調査を行う時、3番目の条件(参入障壁が高い)が満たされるかを、念入りにチェックします。

 3つの条件を満たしている安定成長株を、具体例でお話しします。東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは、分かりやすい安定成長株の実例です。テーマパークの利用者は安定的に拡大し、近年は海外からの観光客も増加しています。中でも、東京に近い立地を押さえ、他社がまねできない独自の施設・サービスを作り上げた東京ディズニーリゾートは、長い年月テーマパークで独り勝ちが続きました。1日入場券を継続的に値上げしてこられたことも、好不況の影響を受けにくい安定成長に寄与してきました。

 好立地を押さえ、他社がまねできないテーマパークを作り上げたことで、参入障壁の高い安定成長ビジネスになっています。

 昭文社の話に戻ります。昭文社は、2000年当時、出版ビジネスをメインとしていましたが、新規に電子地図ビジネスを始め、成長させる意欲を持っていました。株式市場では当時、昭文社を、コンテンツ関連株(インターネット上で需要が拡大するコンテンツを供給する会社)として期待していました。

 出版ビジネスは、将来的に徐々に縮小していくと懸念されていましたが、代わって電子地図事業が急成長すると期待されていました。そこで、私は昭文社に取材に行きました。電子地図事業が3つの成長条件を満たしているか、調べるためです。

 その時の取材で私が出した結論は、以下のようなものです。

(1)電子地図の需要は将来、急増する(カーナビに採用されると大きいと期待されていた)

(2)市場シェアが高い(当時、きちんとした電子地図を作れるのはゼンリン・昭文社の2社だけだった)

(3)参入障壁も高い(国土地理院の地図を買ってきて電子化するだけなら誰でもできる。ただし、全国に調査員を置いて、地図に出ていない情報の書き込みや、再開発による地図の修正をきめ細かに実施しているのは、ゼンリン・昭文社の2社だけだった)

 3つの成長条件を満たす企業と確信してから、買い出動したために、昭文社の株価がずるずる下げ続けていても、売りが実行できませんでした。

昭文社は、電子地図ビジネスで稼ぐことができなかった

 昭文社は、前期(2020年3月期)まで4期連続で営業赤字を計上しています。今期(2021年3月期)も営業赤字となる可能性があります。わずかな黒字か赤字を繰り返す構造不振企業となってしまいました。同社の電子地図は成長せず、出版事業は縮小を続けました。私の判断の何が間違えていたのでしょうか?

(1)電子地図の需要は急拡大しました。ただし、もっとも有望だったカーナビでの採用は、ゼンリンに先を越されました。

(2)シェアは高いままだったと思います。参入障壁もそれなりに高かったはずです。全国に調査員を置いて、地図を修正することも、誰もができることではありません。

 ところが、昭文社は電子地図で大もうけすることはできませんでした。ネット上で、無料の電子地図がいくらでも利用できる時代になったためです。昭文社は、自らが持つ貴重な電子地図データを囲い込んで大もうけすることなく、安価な価格でネットでの使用を認めてしまいました。そのおかげで、利用者は自由に電子地図を使える恩恵を受けられるようになりましたが、昭文社は利益を拡大することができませんでした。

ずるずる下げる小型株は、どんな事情があろうと、いったん「売り」

 ここから得られる教訓ですが、どんな事情があろうと、急落する小型株はいったん売り、頭を冷やしてから考え直すということです。企業内容をきちんと調べることが重要であるのは言うまでもありませんが、それでも、企業の未来を正確に予想することはできません。リスク管理の重要性を再認識しました。

 ゴルフで良いスコアを出すためには、いかに遠くまで飛ばすか考えるより、いかにOB(コース外に出る失敗打)を少なくするかを考える方が大切です。麻雀で堅実に勝つには、大きな手で上がることを狙うより、振り込まないことが大切です。野球で堅実に勝つには、エラーや四死球を少なくすることが大切です。

 同じように、株式投資で堅実に資産を増やすには、いかに急騰銘柄を見つけるかより、いかに暴落する銘柄をつかまないようにするかが、大切です。投資で百発百中はありません。いろいろな銘柄に投資していれば、いつか暴落する銘柄に行き当たるものです。そうした時、いかにすばやく損切りを決断できるかが、長期的なパフォーマンス改善に大きな影響を及ぼします。

これだけは絶対やってはいけない!急落銘柄の買い増し

 昭文社の投資損失が大きくなった最大の要因は、株価が下がる過程で、同社株を買い増ししたことにあります。いわゆる、ナンピン買いと言われる、損失拡大を加速させる可能性の高い投資方法です。

 ただ、眺めているだけでなく、損切りが大切なのは言うまでもありません。ただし、もし損切りできなくても、保有株をそのままにしているならば、まだましです。最悪なのは、ナンピン買いで、問題株の保有を増やしてしまうことです。それだけはやってはいけない教訓として、肝に銘じています。