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 2月下旬、ロシアはウクライナでの特別軍事作戦、いわゆるウクライナ侵攻を開始しました。ロシアはウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟阻止をはじめとして、NATOの東方拡大懸念を侵攻理由の一つとしています。戦闘は続き、ウクライナからの難民は増大中ですが、停戦協議は難航しています。経済制裁によってエネルギー・資源・穀物価格などは上昇しています。混迷が続く『ウクライナ情勢』についてまとめます。

【ポイント1】拡大する戦況と増加する被害…難民は戦後最大規模に

 ロシアのウクライナ侵攻は、主要都市へと戦線を拡大し、足元では国境付近に配置していた戦力をほぼ全てウクライナに投入する状況となっています。しかし欧州の支援を受けたウクライナ軍の抵抗もあり、ロシア側の計画通りには進んでいない模様です。ロシア軍はミサイル攻撃など、長距離からの無差別的な攻撃を増やしていて、民間人への被害が増加しています。戦禍を逃れるウクライナからの難民は現時点で既に300万人超にものぼり、今後も増加すると見られ、第2次世界大戦以降で最大規模となると見られています。難民は、ポーランドやハンガリー、ルーマニアなどの周辺国へ流入していますが、受け入れの限界に近づきつつあります。

【ポイント2】強まる経済制裁と民間企業のロシア事業縮小の動き

 欧米を中心とする世界各国は、ロシアのウクライナ侵攻に至る前に、それを警戒していました。しかし、実際にウクライナ侵攻が開始されたことで、主要国は経済制裁を強めています。具体的には、ロシアの一部金融機関の国際銀行間通信協会(SWIFT)からの排除や、ロシア中央銀行の外貨準備の利用制限、プーチン大統領をはじめとする支配層の個人資産凍結といった金融面での経済制裁が挙げられます。

 ロシアの銀行のSWIFTからの排除により、ロシアからの原油・天然ガスなどのエネルギーの供給が困難となる可能性があります。このため、需給がさらにひっ迫するとの懸念から、エネルギー価格は大きく上昇しました。このほか、ロシア・ウクライナは小麦を中心とした穀物・肥料の国際貿易市場でシェアが高く、これらの供給が制約される懸念が大きくなっています。

 政府による制裁強化のみならず、主要国を中心に民間企業でも、ロシアとの共同事業からの撤退や、ロシアでの生産や販売などの営業活動停止、ロシアに向けた輸出などの停止、現地駐在員のロシア国外への退避といった動きが広がっています。こうしたロシア事業の撤退・縮小は、世界の主要企業の200社超にものぼるという集計結果もあります。

 経済制裁や民間企業のロシア事業からの撤退により、景気の悪化やルーブルの下落など、ロシア経済への影響は大きくなるとみられ、2022年は前年比▲10%程度の景気減速になるとの見方が出ています。

【今後の展開】停戦協議は難航、戦況打開に向けたロシアの強硬姿勢に要警戒

 ロシアとウクライナは2月28日以来、断続的に停戦協議を行っています。当初は、両国の主張の隔たりが大きく、交渉は難航していましたが、徐々に歩み寄りが見られている模様です。

 ロシアは当初、(1)ウクライナの非武装化、中立化、(2)ロシアによるクリミア併合の承認、などを要求していました。一方でウクライナは、即時の停戦とロシア軍のウクライナからの撤収を要求していました。また、ゼレンスキー大統領はNATO加盟を目指していたほか、2月末にはEUへの加盟申請を行いました。

 その後、今月15日にはゼレンスキー大統領がNATO加盟を断念する発言を行い、翌16日には、ロシア側もウクライナがNATO加盟を断念して中立化すれば妥協が可能だとしました。このように、ここにきて、停戦協議は前進を見せ始めています。

 ただし、停戦協議は行われてはいますが、ロシア軍の攻撃は依然として続いています。また、ウクライナの安全保障の確保、ロシア軍のウクライナからの撤退、現在ロシア軍が支配しているウクライナ領土の帰属問題などの懸案事項が残っています。

『ウクライナ情勢』は、戦況がどちらかに有利に傾くか、ないしは経済や人道的被害が甚大になるまで停戦合意に至らない可能性もあります。早く『ウクライナ情勢』が落ち着きを見せ、平和が取り戻されることを切に願います。