農産物価格は直接要因で上昇

 一方、農産物価格は、ウクライナ情勢の悪化が、直接的に上昇させていると言えます。

 以下のグラフは、菜種油、小麦、トウモロコシの価格の推移を示しています。

図:菜種油の価格推移 単位:ドル/トン

出所:世界銀行のデータをもとに筆者作成

図:小麦とトウモロコシの価格推移 単位:セント/ブッシェル

出所:世界銀行のデータをもとに筆者作成

 いずれの農産物も、米国で金融緩和縮小の議論が加速し始めた昨年秋以降も、価格上昇が続いていることがわかります。

 2020年4月から昨年夏ごろまでは、米国の大規模な金融緩和が相場を支える大きな原動力でした。金融緩和が縮小される議論が加速し始めたことで、秋以降、農産物価格は下落するとの声が聞かれましたが、逆に、上昇しました。ウクライナ情勢の悪化が直接的に、農産物価格を押し上げたと考えられます。

 価格上昇について、エネルギーと異なり、ウクライナ情勢が直接的に関わっていることを確認するため、ウクライナの貿易の状況を確認します。以下は、ウクライナの主要輸出品目における、同国のシェア・ランキング、偏在度、世界全体の輸入10位に対するウクライナの貢献度を示しています。

図:ウクライナの貿易の状況(2019年)

出所:oecデータをもとに筆者作成

 OEC (Observatory of Economic Complexity)のデータによれば、ウクライナの主要輸出品目のうち、世界全体における輸出シェアが10%を上回るのは、植物油、銑鉄(せんてつ)、菜種、トウモロコシです。

 植物油は、菜種油、大豆油、ヒマワリ油などで、銑鉄は、溶鉱炉に入れて鉄鉱石、石灰石、コークスを入れて鉄鉱石を還元した、鋼の原料です。

 10%以下であるものの、世界的に貿易規模が大きい小麦の輸出シェアが7.0%と比較的高いことも、ウクライナの特徴と言えます。

 ウクライナの主要輸入国への貢献度を見ると、植物油が48.5%、菜種が16.5%、トウモロコシが13.5%、小麦が9.5%などの農産物において高いことがわかります。逆に言えば、主要輸入国はそれだけ、ウクライナに依存していると言えます。

(銑鉄も貢献度が高いですが、銑鉄か鉄鉱石のままか、どちらを輸入するか、輸入国側にある程度、裁量があるとみられるため、ウクライナの貢献度が高いかはもう一段踏み込んだ議論が必要だと考えます)

 同国の情勢が悪化した場合、ウクライナが貢献している農産物については、世界規模の供給障害に発展する可能性があります。また、ウクライナは日本と同じ北半球に位置します。情勢悪化が長期化した場合、農産物の生産が本格化する春以降、作付けが思うように進まないなどの懸念も残ります。

 足元、こうした見方が強まっていることが、菜種油、トウモロコシ、小麦などの農産物価格を押し上げていると、考えられます。(直接要因)