年初から数回にわたって講演させていただく機会がありました。そしてあちこちで指摘されたのが、「堀古は金の話をしなくなった」でした(いえ、カネの話はいつもしていますが……ではなくてゴールドの話です)。そこで今回は久しぶりに金(ゴールド)について書かせていただきたいと思います。
結論から申し上げると、金は今年、1トロイオンス2,000ドルを超えて上昇していくと見ています。私の金に対する見方は3年以上前にここ(金への投資(2009年10月9日))に書かせていただいた通りで、基本的に変わっていません。むしろ最近になって、金の上昇材料は増えてきているように見えます。
第一に、当時と比べて世界各国の財政状況はさらに悪化しており、改善の兆しは見られていません。日本はもちろんのこと、アメリカもヨーロッパも、金融危機やユーロ危機は脱した感がありますが、それら危機によって膨らんだ財政赤字を取り戻していくのはまだまだ先の話です。財政が厳しい中、量的金融緩和を中心とする金融政策に依存しなければならない状況に変わりはありません。
第二に、少々景気が回復してきたからと言って、積極的な金融緩和姿勢が解除されるとは思えません。バーナンキFRB議長は2012年9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)でQE3(量的緩和第一弾)に踏み切る事を発表、その後の記者会見で「景気回復のエンジンに欠けているピストン-それは住宅市場だ」と述べました。私は住宅市場については既に先行指標が大幅な改善を示してきており、住宅価格の上昇は時間の問題と見ていますが、住宅価格は常に遅行指標です。FRBがその遅行指標を見ているとすれば、金融緩和姿勢が解除されるのはまだかなり先の事になりそうです。
第三に、これまで世界標準から外れていた日本の金融政策が世界標準になった事です。実際、FRBが積極的なQE1を始めた2009年初、我々のファンドでドル現金の代替資産として検討したのは金と日本円でした。しかし日本円とはいえ究極的には人類が発行できるものであり、いくら日銀でも早晩世界標準の金融政策に協調して来るだろうとの考えから、出した結論は金への投資でした(日銀は我々が想像した以上に頑なでしたが、それでもその間の日本円の対ドル上昇率は25%、金の上昇率は75%でしたので、結果的には正しい判断でした)。日本が積極的な量的緩和に加わった事で、自国通貨高による「日本からのデフレ輸出」を避けるため、世界各国はますます金融緩和の手を緩める事ができなくなったのです。
第四に、この2月12日(火)からシカゴ先物市場で金先物の証拠金率が引き下げられます。金先物価格は、証拠金が5,001ドルから4,500ドルに引き下げられた2011年6月末頃から急上昇を始めました。同8月22日に1トロイオンス1,892ドルの高値(終値ベース)を付け、同8月25日に証拠金が引き上げられて上昇相場が終わったのは記憶に新しい所です。その後、一時8,500ドルまで引き上げられていた証拠金は順次引き下げられ、今回の引き下げで、その急上昇前の最低水準に戻る事になります。勘定に一定の証拠金額が入っている状況を想定すれば、証拠金率が低いほどより多く金先物が買える=より金先物価格が上昇しやすい、という訳です。
私は2010年1月の楽天証券新春講演会で金を、2012年1月にはドル/円をそれぞれ最も有力な投資先として挙げたので、「どこまで上がるのか」「いつどこで利食えばよいのか」というご質問を本当によくいただきます。確かに日本では株価は長い間下落する方が多かったし、ドル/円はここ5年ほど下落する一方だったので、皆さん「利食わないと大変な事になる」という潜在意識が植え付けられてしまっているのではないかと思います。しかしここは発想の転換が必要だと思います。
2012年で円高が終わるというのはここ(日本にとって本当のリスク:円安(2011年11月11日))にも書かせていただいた通りです。これを読んでいただいている殆どの方は日本にお住まいで、資産の殆どを日本円で持っておられると思います。今後はその日本円、即ち資産の価値が下がっていくのをどうやって防いでいくか、の方が重要になります。そのような時、これまでの調子で「利食い」と称して資産防衛策を止めてしまえば、その後貴方の資産は相対的に減っていくばかりです。表面上は利食ったつもりが、実質的には利食いになっていないのです。
今、世界標準の金融当局の考えは、現金に資産保全機能を与えない事です。人々が現金に資産保全機能があると思えば消費も投資もしなくなり、経済が停滞してしまうからです。日本もその世界標準になったのです。このような中、人々は何にその資産保全機能を求めて行けば良いのか。引き続き、金はその有力な候補先だと考えています。
(2013年2月8日記)