米雇用市場から労働者が消えた?
アマゾンとウォルマートが、今後数カ月の間に30万人以上を採用する計画を発表しました。世界最大の物流サービス会社のフェデックスも、数十万人の従業員を採用する予定。
日本のイオングループの従業員数が12万1,000人(正社員+時間給社員)なので、その採用規模の巨大さがわかります。
コロナ後の経済活動再開が本格化する米国では、働き手を探しているのは小売業や流通業だけではありません。米国の労働市場には1,000万件以上の求人が溢(あふ)れています。
ところが、働く人が見つからない。レストラン、ホテルなどの人手不足はいまだに解消されていません。コロナ感染流行前には、店員やトラックのドライバーが大勢働いていたはずなのに、なぜ今は労働者が不足しているのか。
不況が過ぎた後、仕事を失っていた労働者は、しばらく間を空けることはあっても、機会が見つかれば仕事に戻ってくるのがこれまでの一般的なパターンでした。イエレン財務長官も、今の労働市場は「忍耐の時期」で、いずれ労働者は戻ってくるだろうと見ています。
ところが今回は、これまでの不況後には見られなかった現象が起きています。それは「退職率の急激な上昇」です。
米国の株式市場は、コロナ禍にもかかわらず、史上最高値を塗り替えながら上昇し続けていますが、そのおかげで、多くのサラリーマンがコロナ前よりも「金持ち」になった。隠居に十分な貯蓄ができたので、ウイルス感染の恐怖に怯えて外で働く必要がなくなったのです。
この人たちは労働市場に再参入するチャンスを待っているのではなく、永遠に去ってしまった。新型コロナによって米国では2,200万人が仕事を失いましたが、そのうち約200万人は今後も仕事に戻ってこないといわれています。
米国では、総人口に対する生産年齢人口(15歳から64歳)の割合が、他のOECD(経済協力開発機構)諸国と比べて急激に低下しています。労働力不足は、生産者不足による賃金上昇やドライバー不足による流通網回復の遅れという形を通じてインフレをさらに上昇させるだけはない。長期的には国の成長力の衰退につながります。
労働者の退職を加速させたのは株高。その株高をつくった大きな要因は中央銀行の超低金利政策。経済を助けるための政策が、逆の結果を招いてしまったとしたら皮肉です。