最近、米長期金利の上昇が懸念材料になっています。昨年末、2%スレスレまで低下した米10年物国債利回りは特にこの一ヶ月の間に急上昇し、今日一時4%を付けるに至りました。そもそもメディアというのは悲観的なニュースを優先して取り上げる傾向があります。株価が下落している時は株式のニュースを取り上げますが、株価が回復してきたら株式を取り上げるのではなく、下落している国債(利回りは上昇)の方を取り上げるものです。こんな悲観的なニュースばかり見ていたので今回株の買い時を逃してしまった、という方も多いのではないでしょうか。
言うまでもなく、株価と国債の価格は逆相関の関係にあります。現在株価が回復してきて長期金利が上昇するのは当然の事です。問題はそれがどの程度か、という事にかかっており、ファンダメンタルズを反映した適正な長期金利の上昇であれば問題はない、という事になります。結論から申し上げれば、私は長期的に長期金利の上昇が問題になる可能性は高い一方、恐らく現在の長期金利上昇局面は懸念する必要はないと考えています。
第一に、現在の長期金利上昇は金融システム正常化の証と言えます。確かに半年弱で10年物国債の利回りが2倍という今回の動きは大きいものです。しかしその前2ヶ月、即ち、去年10月半ばに4%であった10年物国債の利回りは、12月末にかけて2%にまで急低下するという、全く逆の動きをしていたのです。大手金融機関が連鎖倒産し、金融システムが麻痺するかもしれない、という異常な状態の中で到達したのが2%という水準だったのですから、その2%が異常であったと捉える方が自然と言えます。
第二に、長期金利が最近のペースで今後も急上昇していくとは考え難いと思います。何故なら、現在の経済環境ですぐにインフレ率が高騰していく可能性は低いと見られるからです。確かに最近、原油や商品価格は再び上昇傾向にあります。しかし昨年、原油価格が150ドル近くまで高騰した場面でも、物価上昇が広く伝播する事はありませんでした。私は、昔のようなインフレが大問題になるのは、賃金インフレに発展する時と考えています。失業率が10%を目指す中、インフレよりもデフレの方が懸念材料のはずです。住宅価格の更なる下落が確実な現下、インフレを起こしたくても起こせない状況がしばらく続くと見るのが妥当ではないでしょうか。
確かに、アメリカは今回の金融危機を通じて構造的には大きな問題を抱えてしまいました。当コラムでも、米財務・金融当局が「麻薬」に手を出した理由(2008年9月22日)に始まり、木を見て森を見ないGM、クライスラーの処理方法(2009年5月22日)まで様々な問題を指摘させていただいてきましたが、これらは全て長期的なアメリカのファイナンスにかかわる問題です。米国債の投資家が相応のリスクプレミアムを要求する結果、長期金利は下方硬直的になるはずです。そして当局は、これを改善する手段を持っていないのです。長期的な問題として念頭に置いておく必要があります。
しかし、金融システムが崩壊するかもしれない時の長期金利2%と、金融システムが正常化した今の長期金利4%だったら、株式市場にとっては今の方が良いに決まっています。株価変動率、消費者信頼感指数、ISM指数、非農業部門就業者減少数など複数の指標がリーマン破綻前の水準にまで回復しているのですから、長期金利が4%に戻るのも当然だという事です。繰り返しになりますが、リーマン破綻当日のダウ終値が11,000ドルであった事を考えれば少なくとも、当面株価が引き付けられるのは上方向でしょう。
(2009年6月10日記)