短期の場合と長期の場合

 短期のトレーディングを「資産運用」の仲間に入れていいのかどうかについては、議論の余地があるが、今回は検討に加えよう。

 先物取引、信用取引、証拠金取引、レバレッジETF(上場投資信託)などの利用は、短期トレードを目的とする場合、主に「リスクの大きさ」(2番)と「手数料を含めた実質的な金利」(3番)について取引する本人が十分理解し、納得し、自分を制御できるなら、利用しても良いと考えるべきだろう。後は、当たり外れの問題だ。殆どのケースで「頑張って何とかなる問題ではない」と知りつつも、心情的には「頑張って下さい」と言葉をかけたい。

 問題は、長期の資産形成を目指す運用におけるレバレッジの使用だ。

 筆者は、NISAが導入された頃(2014年)のある講演で、「大金持ちの方は、レバレッジが掛かったETFか投資信託をNISA利用枠一杯まで買って、5年間放っておくと、NISAの枠を有効に使えるのでいいかも知れません」と言ったことがある。商品の仕組み上高い金利の借金にはならないし(3番)、大金持ちならリスクは問題ないし(2番)、相場次第・運次第ではあるがインデックス投資はプラスの期待リターンがあるから(1番)、前記の「良い借金の3原則」に該当するレバレッジの利用になり得ると考えた。

 では、大金持ちではない「普通のサラリーマン」の資産形成の場合ならどうだろうか。一般向けの書籍なら、投資家のリスク管理の能力や、精神面なども考慮して、「借金による投資や、レバレッジの利用は止めておきましょう」と書きそうなところだが、リスク管理が十分出来て、精神面にも問題のない投資家ならどうなのか?

 例えば、若くて安定した職に就いている健康なサラリーマンの場合、運用資金をまだ多額には持っていない一方で、潤沢な「人的資本」(本人の資産価値)を持っているので、リスク吸収能力は大きい。こうした場合は、レバレッジを利用してリスク資産運用のポジションを拡大することが、マネープラン的にはむしろ合理的だと考えられる場合が十分ある。

 では、高齢者の場合はどうか?

 高齢者は、人的資本は小さくなっている一方で、将来必要な支出の見通しが立ちやすい点で、運用にあって大きなリスクテイクができる可能性がある。「今後に必要な支出額」の何倍もの運用資金を持っている場合に、レバレッジを掛けて運用することが合理的になる場合は、やはり想定しうる。相続人と一緒に運用戦略を決めるといい場合が多いのだろうが、例えば「レバレッジを使った運用で大いに資産を増やして、多額の寄付を行う豪快な老人!」のような人がいてもいいわけだ。