約2カ月前の6月20日(金)、ニューヨーク大学ビジネススクールに招かれ講演させていただく機会がありました。その講演で話させていただいた内容が正にこの「ファニー・フレディー問題」でした。当時まだこの2社の株価は25ドル近辺で取引されていました。それが週明けの6月23日(月)から2社の株価は急落を始め、本日時点でそれぞれ6ドル台、4ドル台での取引となっています。当コラムに書かせていただいた内容が殆どですが、簡単に当日の講演の概要を記させていただきます。

我々が本格的にファニー・フレディーの危機を想定し始めたのは5月の事でした。3月半ばの危機を受けて、金融・財政政策をはじめ様々な住宅対策が打たれました。当初は短期的にしろ、その効果は表れてくると考えていたのですが、4月の指標を見ても、5月の指標を見ても、その気配はありません。意外かもしれませんが、1970年以降、アメリカの住宅価格の中間値が前年同月比で3カ月以上下落した事はありませんでした。しかし今回はこれまで、23カ月連続で下落しています。1980年代前半や90年代前半のような住宅不況とは違った現象が起こると考えるのが自然でした。

「アメリカの住宅ローンはノンリコース(担保を超える返済義務を負わない)」と言われる事がありますが、正確には法律上ノンリコースとなっているのはアメリカの半数余りの州だけです。ただノンリコースはこれまでになかった新種の債務不履行者を生み出します。即ち、これまではローンが返済できなくて住宅を差し押さえられる人だけだったのが、「踏み倒した方が有利」と考えて住宅を差し出す人達が出現してしまいます。これら2社の条件に見合うローンは頭金20%が必要とされています。という事は、住宅価格が20%以上値下がりすると、住宅ローン金額>住宅価格となり、他の諸要素を考えなければ、踏み倒した方が得になってしまうからです。この2社が今の形になったのが1970年代ですから、それ以降、この2社はこのような「新種の債務不履行者」を経験した事がないのです。

当日の講演では以上のような感じで今回ファニー・フレディーが危機に陥る可能性を指摘した上で、当コラムの通り、それが各方面に与える影響について話させていただきました。

現在、ファニーメイ債と国債の利回り差は3月半ばの金融危機以来の水準にまで拡大しています。これは住宅ローン金利の上昇を通じて住宅市場がさらに厳しくなる事を示しており、延いてはこの2社の財務状況はこの先更に悪化することになります。先月成立した住宅対策法案で、市場は政府が資金を注入するという期待を持ってしまったものだから、悪化の進行がスローになり、現在の状況はかえって最悪になってしまっているとも言えます。早期にドクターストップをかけないと、この悪循環が更にアメリカ経済全体に広がってしまいます。

ファニー・フレディー問題(2)~エージェンシー債のリスク (2008年07月17日)で書かせていただいた通り、私は債務の一部株式化が最も公平だと考えています。ただ取り敢えず第一弾は公的資金注入という事になる可能性は高いと見られます。それが不十分となれば、将来的には両者が再び検討される可能性も十分あるでしょう。

そうなると、ファニー・フレディー問題(3)~日本政府は保有しているのですか? (2008年07月24日)という疑問は残るものの、日本政府が保有しているのがエージェンシー債であろうと、米国債であろうと、実はあまり変わりがない事になります。米国債を保有していたら、いつの間にか裏付けとなるのはベアスターンズが保有していた訳の分からない証券化商品290億ドルと、政府系住宅金融機関が保有していた巨額の住宅ローンと、資金不足に陥った預金保険機構に対する補填ローン、となる日が近付いているように見えるからです。