政府系住宅金融機関(GSE)であるファニーメイやフレディーマックが発行する債券はエージェンシー債と呼ばれます。前号で申し上げた通り、市場はエージェンシー債には「暗黙の政府保証」があると信じています。エージェンシー債は2007年末時点で3兆ドルの発行残高があります。ちなみに米国債の発行残高は4.5兆ドルです。エージェンシー債が本当に政府から保証されるのであれば、3兆ドルのエージェンシー債に「もしも」の事があった場合、4.5兆ドルの米国債で支えなければならないという事です。普通に考えればこれには無理があり、「暗黙の政府保証」を妄信するのは甘い事が分かります。
確かに、10年前であればエージェンシー債の発行残高1兆ドルに対して米国債は3.5兆ドルでしたので、3分の1以下の発行残高であったエージェンシー債の「もしも」を支える事は可能だったかもしれません。しかし10年前から明らかに力関係が変化した今も、10年前と同じように、市場が「暗黙の政府保証」を信じているのは不思議です。
そもそも、これまでは政府系住宅金融機関の「もしも」を想定する必要がなく、よってその対策も検討する必要がなかった、又は検討する事自体が金融市場に不要な疑念を招いてしまうとの考えがあったのでしょう。これまで全く手付かずであった、これら政府系住宅金融機関に「もしも」があった場合の対策が、最近になって次々と打ち出されてきています。
ポイントは以下の通りです。
- 政府からの与信枠を一時的に増加する
- 政府による株式購入を一時的に可能にする
- 連銀からの直接貸出を一定期間利用可能にする
- 納税者の負担を最小限に抑える
- 普通株主は救済しない
やはり「暗黙の政府保証」を示唆するような文言は一文字もありません。むしろ、納税者に負担となるような「国有化」は明確に否定しています。このような条件下、「もしも」の場合にはどのような処理策が考えられるのでしょうか。
結論から申し上げれば、私は債務の株式化(Debt-Equity Swap)が行われると考えています。即ち、エージェンシー債の一部が株式、又はワラントなどに交換されるという事です。この手法は民間企業の破たん処理にもよく用いられています。この方法が取られる可能性が高いと考えるのは、これが最も公平で、上記条件を満たす処理策であるからです。
政府系住宅金融機関が破綻した場合、まず普通株主の分け前はゼロとなります。これまで、業績の良い時は株式の値上がり益も享受していたので、文句はない筈です。次にエージェンシー債の保有者です。こちらもこれまで米国債よりも高い利回りを享受してきました。破綻の際に米国の納税者や米国債の保有者に額面金額全ての救済をお願いするのは公平ではありません。「暗黙の政府保証」も保有者が勝手に信じ切っていたに過ぎません。そこで一部を、リスクの高い株式に転換する事を許容するのです。幸い、政府系住宅金融機関は自己資本が過少なため、巨額の発行残高となっているエージェンシー債の一部を株式に転換するだけで問題が解決します。
もちろんこのような対策が取られると分かれば、「暗黙の政府保証」「元本保証」と信じきっていた投資家にとっては前提が崩れます。そしてエージェンシー債は売られる事になるでしょう。しかし現状、最もフェアで様々な条件を満たす処理策である以上、エージェンシー債の保有者は「暗黙の政府保証」から「債務の株式化」に頭を切り替えるべき時と考えています。
次回、実は貴方もエージェンシー債保有者の一人である事について書かせていただきます。