年金問題は「爆弾」

 9月18日の候補者討論会で議論が最も盛り上がったのは年金でしょう。年金問題は政界で「爆弾」と呼ばれます。扱いを誤ると、敵を攻撃するどころか自分まで吹き飛ばされてしまう破壊力があるためです。

 2009年8月の衆院選では、2007年7月の参院選に続いて民主党(当時)が大勝し、政権を奪取しました。当時を知る政界関係者によると、民主党は広告代理店や選挙コンサルタントも利用して国民の不満を詳細に分析。社会保険庁(2009年末廃止、日本年金機構に業務移管)によるずさんな事務管理が発覚した「消えた年金問題」もあり、年金改革を掲げて有権者の不満や不安を吸い上げ、選挙は歴史的な圧勝に終わりました。

 しかし、民主党政権は将来の年金財政に対する国民の不安を解消できず、野党に回った自民党から攻撃される立場のまま消滅していきました。年金問題の根底には、現役世代と高齢世代の人口差があり、負担を増やさず給付を維持するのは不可能です。このため、年金問題を材料に攻めているうちは圧倒的に有利ですが、解決策を実行する側に立った瞬間、圧倒的に不利になるのです。

公的年金は税金で支える構想の河野太郎氏

 そこに切り込んだのが河野氏です。河野氏は「税金で支える公的年金」が持論です。「3階建ての1階部分」と呼ばれる基礎年金(国民年金)を保険料ではなく消費税でまかなう案です。買い物のたびに支払う消費税なら未納も免除もないため財源が安定し、年金保険料徴収事務も不要になる利点があります。

 ただ、9月18日の候補者討論会では、厳しい批判を浴びました。高市氏は現在の基礎年金を税金と保険料でまかなっている点を踏まえ、河野プランでは財源不足に陥ると指摘。岸田氏は旧民主党が掲げた「月7万円の最低保障年金」案を自民党が「実現不可能だ」と批判してきたことを取り上げ、大幅増税につながる可能性を示しました。

 エネルギー問題についても、河野氏と他の3候補の違いが際立ちました。これまで脱原発を主張してきましたが、総裁選スタートと前後して再稼働容認を表明。ただ、使用済み燃料を処理する核燃料サイクルは「なるべく早く止めるべきだ」とし、原発推進で一貫してきた自民党方針と一線を画しています。

 こうした姿勢が災いしてか、河野氏の弱点は国会議員票です。河野氏が属する麻生派はトップの麻生太郎副総理兼財務相が早々と自主投票を決めました。ちなみに政界のキーマンとされる二階俊博幹事長は河野氏と野田氏を支援しているとみられますが、二階派は自主投票です。

 3連休に入った9月18日、自民党議員や秘書は軒並み深夜まで情報収集に追われました。誰につくかで政治家としての運命が変わるからです。「負けたら冷や飯を食う。覚悟を決めた上でやってもらうことを期待する」。麻生氏が派閥の会合で述べた言葉に政治の世界の苛烈な戦いが垣間見えます。

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