中間層の底上げを重視する岸田文雄氏
岸田氏は昨年9月の総裁選で菅義偉首相に敗れた直後から、「次」を目指してきました。今回は満を持しての出馬です。記者会見などで本人が「聞く力」の大切さを説くように、調整力が持ち味です。
今回の総裁選では、これまでの弱肉強食型から中間層の底上げを重視する「新しい日本型資本主義」への転換を唱えています。岸田氏は公示前日の9月16日、経団連の十倉雅和会長と会談し、十倉氏から「経団連と軌を一にするもので、全面的に賛同する」との発言を得ています。
岸田氏の政策は、経団連が昨年11月17日に発表した「新成長戦略」と多くの部分が重なります。新成長戦略は「サステイナブルな資本主義」を目標に、株主至上主義への反省にまで踏み込んだものです。
十倉・経団連会長が岸田氏の政策を聞いて「賛同」したのではなく、岸田氏が財界の要望をくんで温めてきたのが「新しい日本型資本主義」のようです。財政再建論者と目されますが、10年程度は消費税率を引き上げない意向を表明しており、この点は消費税率アップを提言してきた経団連とずれがあります。
そんな岸田氏の弱点は河野氏と比べて世論調査の支持率で遅れを取っていることです。毎日新聞と社会調査研究センターが18日実施した全国調査では、誰に総裁になってほしいかとの設問に対し、回答の多い順に河野氏43%、高市氏15%、岸田氏13%、野田氏6%でした。党員・党友だけを対象とした調査も似たような傾向を示し、河野氏が大幅にリードしています。
安全保障が得意分野の高市早苗氏
高市氏は安全保障が得意分野。中国への抑止力として日米によるミサイル配備の合意が必要だとしています。中国との関係について「米中を対立させるのではなく賢い交渉役として収めていく」と融和的なスタンスの野田氏とは対照的です。
高市氏は経済政策として、アベノミクスを継承した「サナエノミクス(日本経済強靭化計画)」を提唱。財政再建を棚上げして「戦略的な財政出動を優先する」景気重視の路線を鮮明にしています。
高市氏には安倍晋三・元首相がいち早く支持を表明。自民党内の保守層を中心に高い支持を得ています。候補者討論会でも、自らの言葉で政策を訴える姿が好評でした。
ただ、国会議員だけの決選投票にもつれ込んだ場合には、高市陣営の票が岸田氏に回る「2位・3位連合」を予想する記事が各所で掲載されています。
こうした観測記事の背景には、今年5月26日発売の月刊誌「Hanada」でのインタビューがあります。安倍氏は菅首相の後継候補として、茂木敏充外相、加藤勝信官房長官、下村博文政調会長と岸田氏を挙げています。高市氏の名前はありません。
このため、決選投票で岸田氏が勝つように、安倍元首相が高市票を岸田陣営へ誘導するというのです。2012年総裁選では、第1回投票での石破氏199票、安倍氏141票というピンチを決選投票で逆転した安倍氏だけに、こうした作戦立案はお手のものかもしれません。