中国企業は「共同富裕」にどう対応しているか?

 市場や投資家はいま、「共同富裕」が富裕層や大企業を震撼(しんかん)させ、中国経済の先行きに暗雲が立ち込めるのではないかと懸念しています。

 中国当局も、自らの政策が引き金となり、市場サイドを不安にさせていると自覚しているようです。

 例として、8月26日、今回の会議を主催した中央財経委員会の韓文秀(ハン・ウェンシュウ)副主任は、中央宣伝部が主催した記者会見にて、次のように語っています。

「共同富裕は、富裕層を圧迫することで貧困問題を解決しようというものではない。第3次分配は自らの意思によって行われるもので、強制的ではない」

 確かに、会議は、「共同富裕」実現、第3次分配実行の過程は、強制性を伴うものではないと暗示はしています。次の段落を見てみましょう。

「高収入者への規範と調整を強化し、法に基づいて合法的収入を守り、高すぎる収入を合理的に調整し、高所得グループと企業が社会により多く還元することを奨励する。不合理な収入を規範的に清算し、収入分配の秩序を整頓し、非合法な収入を断じて取り締まる」

 私の中国共産党理解からすれば、とりわけ政治の経済、党の市場への締め付けが厳しい習近平時代において、「奨励」とは、限りなく「要求」に近いものです。

 そして、この段落は明確に、「高すぎる収入」「高所得者グループと企業」を対象に「奨励」している。故に、特に中国という強大経済、巨大市場を背景に急成長し、高収益を上げてきた企業は、「共同富裕」の提唱を前に焦燥感を抱き、対応を急いでいるのでしょう。

 特に、最近、市場の独占禁止、サイバーセキュリティー審査、上場規制といった規制強化策の対象となってきたIT、イノベーション系企業は、ただでさえ当局から目を付けられているという経緯を考慮してか、「共同富裕」「第3次分配」を機に、当局に恩を売るべく躍起になっているようです。

 例として、中央財経委員会から間もない8月中旬の段階でテンセント9月初旬にアリババが、それぞれ1,000億元(約1兆7,000億円)を「共同富裕」のために資本を投入する旨を公表しました。

 この1,000億元という金額ですが、テンセント社の2021年上半期(1~6月)の純利益、アリババ社が持つ流動資産の5分の1に相当する額です。単なる「寄付」とは言えないレベルの額であるのは論を待たないでしょう。

 参考までに、2025年までにこの1,000億元を投入するというアリババは、9月2日、「共同富裕に助力するための10大行動」を発表しました。

(1)科学技術分野への投資を増加し、未発達地域のデジタル化建設を支える
(2)中小、零細企業の成長を支える
(3)農業産業化建設に助力する
(4)中小企業の海外進出を支持する
(5)高質量雇用に助力する
(6)非正規雇用者の社会福祉・保障を助ける
(7)地方のデジタル生活の均等化を促進する
(8)デジタルギャップの縮小、低所得者層へのサービスと保障を強化する
(9)基層レベル・地方における医療能力の向上を支持する
(10)200億元の共同富裕発展基金を設立する

 同行動計画の発表に際し、アリババは「時代の発展の受益者として、我々は堅く信じている。国家が好(よ)くなり、社会が好くなり、アリババは初めて好くなる。我々は、高質量発展の中で共同富裕を実現するために、微力ながら貢献していきたい」と党や人民に向かって宣言しています。「共同富裕」への呼応と行動という意味で、アリババとテンセントは決して例外ではありません。

 8月24日、電子商取引企業の拼多多(ピンドュオドュオ)は100億元(約1,700億円)の農業科学技術プロジェクトを立ち上げました。

 同じく電子商取引企業の美団(meituan)の王興(ワン・シン)CEOは、8月30日に開催した財務報告会議において、「共同富裕は美団のDNAに根差している。“美は”better、“団”はtogetherを意味している。美団とは、“一緒によりよく”を意味しているのである」と説明。これに続いて、8月31日、インターネット企業の58同城の姚劲波(ヤオ・ジンボ―)CEOは「58同城の名前は“共同富裕”を意味している。我々の主な事業は、人民に奉仕することである」と語っています。

 8月25日、金融、不動産、鋼鉄、ヘルスケア事業に従事するフォーソン・インターナショナル(復星国際有限公司)の会長で、全国人民大会代表を歴任するなど政治的にも影響力がある郭広昌(グオ・グアンチャン)会長は、同社がこれから自身の産業的優勢を発揮し、中央会議が提起した共同富裕という提唱に呼応していく立場を表明しました。

 そして、医療、健康産業などを通じて農村振興を促進し、教育、文化、雇用といった分野でも公益性の高いプロジェクトを推し進めることで、格差是正に尽力し、共同富裕の実現に貢献していくとしています。