日本企業はどう動くべきか?壮大なマーケティング戦略

 中国強大経済の荒波に乗って闘っていくという意味で、日本企業にとっても「共同富裕」はひとごとではありません。

 上記の中国企業がこぞって行動を起こしているのを、指をくわえて眺めているわけにはいかないでしょう。中国という巨大市場で財を成してきたのであれば、これからはそれを中国の低所得者層や中産階級が富めるように使っていくべきだ、中国社会に、中国人民に恩返しすべきだというのが共産党指導部の「奨励」にほかなりません。

 私が知る限り、日本企業はこれまで、ある意味中国企業以上に、中国現地社会、住民とのつながりを大切にしてきました。

 他の外国企業に勝るとも劣らないほど従業員を大切にする、地元密着型のイベントスポンサーになる、農村部の希望小学校に寄付するなど、まさに「共同富裕」「第3次分配」に貢献する、公益性の高い事業に長年取り組んできています。

 これらの取り組みは、中国当局から高く評価されているものの、昨今の情勢を前に、意識やアプローチを一定程度修正する必要があるとも考えます。

 上記のアリババの「10大行動」計画にも色濃くにじみ出ているように、デジタル化、中小企業支援などは、同社がBtoCビジネスを推し進める中で重視している分野です。

 同会議後、アリババやテンセントの従業員と話をしてきましたが、政権側から「共同富裕」が提唱されてからというもの、寄付や慈善事業をやっていこうという雰囲気ではなく、あくまでも、長期的な視野でビジネスにつながるような仕組みで党・政府の「奨励」に乗っかる、むしろ、それを利用しようというのが社内の態勢のようです。

 言うまでもなく、中国という強大経済にとっての最大の魅力は市場の巨大さ、そして購買力や消費欲旺盛な人々の存在であり、生活です。中国には約4億人の中産階級がいるというのが当局の立場ですが、この階級に属さない、同会議が提起する「低所得者層」は少なく見積もって6億~8億はいるでしょう。同会議は、「共同富裕」という国策によって、一人でも多くの低所得者層が中産階級の仲間入りできるようにすることを目標に掲げています。

 企業にとってみれば、「共同富裕」への対応と行動を通じて、当局に恩を売るという政治的動機以上に大切なのが、世界第3位の人口に相当する中国低所得者層への発信だといえます。

 それは言うまでもなく、自社にとっての潜在的顧客を開拓していくことにつながるからです。習近平政権の「共同富裕」を、壮大なマーケティング戦略と捉えるべき、というのが私の考えです。