中国企業の米国上場は足止め状態。“恩恵”を受けるのは香港?

 ここからは、中国企業が海外市場に上場するに当たって、中国当局が課す規制について見ていきます。

《意見》は、自国企業が海外市場へ上場したことで、個人情報から国家機密まで重要データや情報が相手国に漏えいしていないか、盗み取られていないかを、国家安全保障の観点から厳しく審査するものです。

 また、「中国概念株」に対する監視や監督も強化されます。

「中国概念株」とは、中国国内で主な収益を上げているものの、海外市場に上場している中国企業の株を指し、アリババ、新浪、百度、DiDi、JDなど多くの中国企業がこれに相当します。

 この新規制に関連し、日本経済新聞の記事野村資本市場研究所のレポートが参考になりますが、今回の措置によって、中国企業が規制を迂回して海外に上場するための「VIE(変動持ち分事業体)」と呼ばれるスキームが機能しにくくなる可能性が出てきました。

 VIEは、中国企業が外資規制をくぐり抜けて米国など海外市場に上場し、外国人に株式を買ってもらうために考案された仕組みであり、海外の投資家の権益に直接関わってくる動向だと言えます。

 VIEを採用する中国企業の時価総額は約1兆6,200億ドル(約180兆円)に達します。

 仮にこれらの企業が中国当局による規制を受ける、あるいは最悪の事態として、VIE自体が禁止されるような事態になれば、世界の株式市場が大きな打撃を受けるのは必至です。現段階で、この仕組みが廃止に追い込まれる、機能不全に陥ると私は考えていませんが、注意深く状況を見ていく必要はあるでしょう。

 最後に、7月10日、中国のサイバー当局が《サイバーセキュリティー審査方法》を修正するに当たり、パブリックコメント(意見公募)を求める旨を発表しました。

 100万人以上のユーザー情報を抱える中国企業が海外で上場する際には、当局によるサイバーセキュリティー審査を受けなければならないと書かれています。

 サイバー当局は、自国企業の海外上場がもたらしうる国家安全上のリスクを事前に、厳格に防止することを目的に掲げており、《方法》によれば、「政治、外交、貿易といった要素によって供給が中断されるリスクはあるか」「海外上場後、肝心な情報インフラ、核心的データ、大量の個人情報などが外国政府の影響、コントロール、悪意ある利用を受けるリスクはないか」などを審査の基準に挙げています。

 パブリックコメントの募集期限は7月25日で、遠くない将来、《方法》が中国企業の海外上場をめぐる新たなスタンダードになるでしょう。

 具体的詳細や実施の強度に関しては、引き続き情勢や動向を見ていかなければなりませんが、前述した(1)~(3)に該当する中国企業の、米国を中心とした海外上場が今後より複雑かつ困難になるのは必至です。

 そして、それによる“恩恵”を受けるのが香港でしょう。中国共産党の定義や立場からすれば、香港は「海外」ではなく、《方法》は原則、中国企業の香港上場には適応されません。視点を変えてみれば、政治的には北京化する香港が、引き続き国際金融センターとしての地位を保持する限り、中国経済成長のうまみを享受したい海外投資家にとっては、よくも悪くも、香港が持つ機能がますます重要になっていくということだと思います。