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著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「米大統領選を「静観」する中国。トランプとハリス、どちらの勝利を望んでいるか」
米大統領選の行方を「毅然と静観」する中国
米国の大統領選挙まで2カ月を切りました。民主党陣営では、バイデン現大統領が選挙戦から途中撤退し、ハリス現副大統領が「代役」として立候補しました。共和党陣営では、トランプ前大統領が早々と立候補者となりました。両陣営とも、それぞれの「混乱」と「団結」を抱えながら、現在に至っている印象を受けます。
中国政府は表向き、「大統領選挙は米国の内政であるため、コメントする立場にない」を貫いています。中国自身が、政治体制や習近平(シー・ジンピン)政権への批判を含め、特に米国など西側民主主義国家から「内政干渉」されたくないために、このような姿勢を取ることが多いです。
ただ実際は、中国の党、政府、軍、政府系シンクタンク、そして財界や世論が米大統領選挙を巡る状況を密に観察、分析しているのは想像に難くなく、私自身も、最近中国の方々と意見交換する際には、米大統領選が率先して話題に上がることが多いです。
2016年の大統領選挙では、共和党のトランプ候補と民主党のクリントン候補が戦い、前者が勝利しました。私の分析によれば、当時中国側は、「アメリカファースト」を掲げるトランプ氏を「内向き」で、国際情勢への関与や対外的なリーダーシップに消極的な大統領とみて、「外向き」姿勢を前面に打ち出すことで、国際的な影響力や存在感を強めるための機会を狙っていました。トランプ政権の誕生を中国が世界規模、多分野で台頭するための「戦略的契機」と見なしたのです。
ただその後の実態は異なりました。
トランプ氏の言動や政策が、中国側が想定していた以上に「予測不能」だったからです。追加関税や中国企業への制裁措置など強硬的な通商政策、大統領に当選するなり実行した台湾の蔡英文総統(当時)との電話会談、新型コロナウイルス感染拡大の発生源問題、ヒューストンにある中国領事館閉鎖など、トランプ前政権時に、米中関係は不安定感と緊張感を極めました。
要するに、「予測不能」が「戦略的契機」を上回ったということです。そして、バイデン政権は一定程度トランプ政権の対中政策を踏襲し、現在に至ります。政権交代は行われても、米国の対中戦略・政策には一種の「超党派性」が内在する。従って、今回中国側は2016年や2020年時と比べても、米国の政権交代やそれによって生じる対中政策にいかなる幻想も希望的観測も抱かず、毅然とした態度で静観しているというのが私の基本的な見方です。
中国はトランプとハリスどちらの勝利を望んでいるか
「中国は、トランプとハリスどちらが勝つことを望んでいるか」
私も中国の政府や市場関係者にしばしば提起する質問です。前述したように、中国共産党指導部は、どちらが次期大統領になったとしても、米国は中国を自らの覇権的地位を揺るがし得る「最大の脅威」と見なし、政治体制、イデオロギー、人権といった問題で中国を異端児扱いし、経済、軍事、先端技術といった分野では中国を封じ込め、台湾、南シナ海、東シナ海といった地域では中国に対して包囲網を築いてくる、故に、いかなる幻想も抱かず、断固応戦するという姿勢でしょう。
一方、トランプとハリス両氏の対中政策には、一定の差異も生じることでしょう。
ハリス候補が当選した場合には、基本的には「現状維持」。その対中政策には、良くも悪くも、一定の安定感と予測可能性を伴うことでしょう。国家安全保障の観点から警戒する中国の先端技術、および軍民両用の技術に対しては、「スモールヤード、ハイフェンス」と称される、規制や障壁を絞ったアプローチを取るものと思われます。また、多国間主義を重んじ、日本を含めた同盟国との関係や連携を少なくとも表向きには掲げていくでしょう。
一方、トランプ候補が当選した場合、予測不能性が常に付きまとうでしょう。中国に対しては60%、世界一律で10~20%関税引き上げるとも「公言」しています。日本やNATO(北大西洋条約機構)諸国を含めた同盟国に防衛費の増額を要求してくる可能性が高いですし、イスラエル・ハマスやウクライナ・ロシアといった現在戦争が起きている地域に対する政策にも「現状変更」が見られるかもしれません。
中国が最も警戒する台湾問題に関しては、ハリスは基本的にバイデン政権の政策を踏襲するでしょう。武器売却、議員や高官の往来など中国が嫌がる行動を取りつつも、衝突回避には一定程度コミットする見込み。一方のトランプの政策には「振れ幅」が付きまとうでしょう。台湾問題で習近平政権に「歩み寄る」「突き放す」という両極端の可能性があるということです。従って、台湾情勢の行方という意味でいえば、トランプ政権が誕生した場合の方が、今ある現状が変更される確率が高い、不確実性が高まるということです。
トランプリスク?通商と台湾
私の理解からすると、中国という国は、意外と「予測可能性」、換言すれば、「計画性」を重んじる国です。「五カ年計画」を策定しているくらいですから、当然と言えば当然です。中国の企業や人々の動き方を見ていると、良く言えば、臨機応変で大胆不敵、悪く言えば、行動が読めず、ばくちを打っているような印象も受けます。ただ、中国共産党というのは、組織としての在り方、動き方を重んじ、予測可能性と確実性を極力担保し、上昇させることで、自らの権益を最大化すべく考え、動き、攻め、守る、というのが私の基本的な見方です。
その意味でいうと、トランプ陣営が醸し出す不確実性は中国共産党にとっては嫌でしょう。
特に、私が注目しているのが通商と台湾です。
トランプ政権が再び発足し、追加課税や企業制裁を含め、強硬的な対中政策を打ち出してくることで、ただでさえ厳しい運営状況にある中国経済がどんな打撃を受けるか。台湾問題で、「一つの中国」を否定するような言動を取ってきたり、逆に突拍子もないディールを持ちかけてきたりすることで、台湾問題という中国にとっての核心的利益を引き金に、中国を取り巻く地政学的情勢、安全保障環境が不安定化するかどうか。
残り2カ月を切った米大統領選を眺めながら、中国共産党はこの辺の事情を注視、警戒しているのではないでしょうか。もちろん、重要なのは選挙の結果そのものよりも、その結果新たな大統領が来年1月の就任後、どんな対中政策を打ち出すかにほかなりません。
米中関係が世界経済を含めた国際情勢に及ぼし得る影響は、状況次第では計り知れないですから、引き続き密にウオッチしていきたいと思います。