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著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「初の中央アジア出張:現地で「浸透」していた中国スマホとEV車。中国が見出した商機とは」
初の中央アジア出張:ウズベキスタンとカザフスタンへ
先々週のレポート「8年ぶりの西安!中国出張で見たEV化と景気迷走。出入国は厳しく」でも言及しましたが、8月上旬、中国陝西省の西安でトランジットする形で、中央アジアへ出張に行ってきました。私自身、中央アジアに赴くのは初めてのことで、しかも中国の一都市でトランジットビザ免除措置を利用するのも初めてのことだったので、二重の意味で緊張感を覚えていました。
俗に「中央アジア五カ国」と呼ばれます。カザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギス、トルクメニスタンです。
今回は、中央アジアで最も経済が発展し、面積も大きいカザフスタン(一人当たりGDP(国内総生産)約1万3,000ドル、国土面積世界第9位、日本の約7倍)と、世界で二つしかない「二重内陸国※」の一つであるウズベキスタンに行ってきました。
※二重内陸国:内陸国のうち、国境を接する全ての国が内陸国である国。海に出るためには、最低2回は国境を通過しなければならない。もう一カ国はリヒテンシュタイン。
西安から空路でウズベキスタンの首都・タシュケントに入り、歴史的にシルクロードの要衝として栄えた古都・サマルカンドとの間を鉄道で往復し、タシュケントから空路でカザフスタン最大の都市で、1997年にアスタナに移転するまで首都だったアルマトイへ向かいました。(日本がJICAによるアスタナの都市計画作成を支援した経緯があります)
それから再び西安でトランジットし、帰路についたという旅程です。
アルマトイで意見交換した中国人によれば、中国語には「天子守国门」、すなわち「皇帝が国のゲートを守る」という言葉があり、要するに、1991年のソ連からの独立後、カザフスタンという国家の安全にとっての真の脅威は中国ではなくロシアである、従って、中国との国境に近いアルマトイから、ロシアにより近い、北部のアスタナへ遷都したとのことでした。「ソ連はカザフスタンで過去に456回も核実験を行っている。今でもその後遺症に苦しむ人々がいる。カザフ国民はそういう記憶を忘れていない」とも言及していました。
「中国は脅威じゃないからアルマトイに首都を置いておく必要はない」という主張には若干違和感を覚えましたが、カザフスタン最大の都市で、ロシアの存在や影響力を異様に意識する中国人、という光景には新鮮さを覚え、示唆(しさ)のある体験だったと思っています。
ウズベキスタンで実感した中国車の勢い
西安からタシュケントへは中国の航空会社のフライトで向かいましたが、乗客の8割が中国人で、残りはウズベキスタン人という様相でした。ウズベキスタン、カザフスタンともに、中国籍保有者への短期渡航ビザが免除になり、中国からの来訪者が一気に増えたという感じでした。空港や機内で適宜中国の方々と交流しましたが、印象的だったのが「自動車」です。自動車の部品を売り込みに来たという出張者が複数いて(浙江省が多かった)、かつタシュケントの空港出口で掲げられている迎え用のプラカードを見て気付きましたが、電気自動車(EV)大手であるBYD(比亜迪)の出張者が5名ほど乗っていました。
調べてみると、同社は今年1月、ジザク州に「BYDウズベキスタン工場」を開設し、EVを現地で量産すべくかじを切りました。量産に向けてかじを切った6月には、ミルジヨエフ大統領が工場を視察し、組み立てラインから出てきたばかりの新車にサインしています(同大統領は3月の時点でBYDブランドのEVとハイブリッド車の国内生産拡大に関する大統領決定に署名済み)。同工場におけるプロジェクト投資総額は1億6,000万ドルで、2024年中に5万台、最終的には年産50万台を生産する計画とのことです。
現地で話を聞いた同社の中国人出張者は、「ウズベキスタンがグリーン戦略に向けての国策を打ち出したのが大きい。同国の人口は3,000万人以上で、市場としても小さくない。カザフスタンなど他の中央アジア諸国への輸出も視野に入れながら生産を拡大していく。1億6,000万ドルなんていうのは序の口だ」と語っていました。
(筆者注:同国政府はグリーン経済へ移行するための政策としてEV普及を推奨。2019年1月からEVの輸入関税を撤廃している)
BYD社は同国を含め、中央アジア市場に対する調査や関与を強化しているとのことでした。
サマルカンドの一角では「BYD」という名前の入った道路標識すら見られ、「とにかく現地政府との関係構築を最大限に重視している」という前述の出張者の発言を裏付ける場面も見られました。
「BYD」の表記が入ったサマルカンドの道端標識
アルマトイではトヨタ車が最も多く、韓国のヒュンダイがそれに続き、中国勢はほとんど見られませんでしたが、ウズベキスタンのタシュケントとサマルカンドではBYDや奇瑞汽車(Chery)など中国車が至る所で走っており、同国内でこれからさらに市場シェアを拡大していく「勢い」を感じました。スマホではOPPOやHUAWEI、家電ではグリーや美的集団(Midea)などが普及しており、韓国勢のサムスンやLGと競争している構図の一端を垣間見ました。
タシュケントの「HUAWEI」と「BYD」
中国勢がウズベクやカザフに商機を見いだす理由
今回の中央アジア出張では、中国の影響力や浸透力を現地で調査することが目的でした。収穫は大で、予想通り、中国の存在感は健在であり、今後拡大していく趨勢(すうせい)は不可逆的であると感じました。道中、中国の商人たちはなぜカザフやウズベクに商機を見いだすのかを考えていました。(他の3カ国には赴いていないので、「中央アジア」と一括りにはしません)
大きく分けて三つの理由が挙げられるように思います。
一つ目が、習近平(シー・ジンピン)国家主席率いる政府が中央アジアとの関係を重視しており、政治的なお墨付きが得られるという点です。2023年5月、西安市で中国・中央アジアサミットが初めて開催され、6カ国の国家元首が出席しました。会議をリードしたのはもちろん習近平氏で、中央アジア五カ国に5,000億円を超える支援も発表しました。今後2年ごとに、主催国を交代しながら開催していくとのこと。
「一帯一路」構想も掲げてきた習近平氏が中央アジア五カ国の大統領と関係と支援強化を約束した背景は、中国企業にとってこれ以上ない恩恵といえます。そのお国柄からして、海外進出する中国企業は、とにかく「お上」の意向や動向を注視しながら動く特徴が顕著に見られます。その意味でも、中央アジアでの事業展開は「時勢」に符合するということです。
二つ目が、インフラを含め、経済的潜在力を見いだしているという点です。タシュケントで交流したある商人が言っていました。「我々はこういう国では強い。インフラがまだまだ未整備だ。需要はたくさんある」と。中央アジアには、タシュケントとアルマトイの二都市で地下鉄が走っており、壮大な建築物も見られますが、それらの多くはソ連時代に作られたもので、その他のインフラ整備はまだまだ発展途上という様相でした。前述した自動車をはじめとしたメーカーに加えて、ゼネコン大手も進出の速度と規模を強めていくのでしょう。
三つ目が、ウズベクやカザフの「国情」に中国人が一定程度の快適さを見いだしている点です。ウズベクもカザフも「イスラム圏」といえますが、世俗化が進んでおり、両国ではビールやワイン、ウォッカを含め、容易に買って飲むことができました(しかも安い!ウズベクでは町のコンビニで1本100円、ホテルのロビーでも300円程度)。
この世俗化に加え、治安の安定の重要性も、現地で交流した中国人たちは口々に挙げていました。テロ警戒・防止という点も、中国と中央アジア共通の政策課題といえます。
最後に、旧ソ連という社会主義的な面影や影響が残っている点も、中国人に「親近感」を抱かせている点も印象的でした。
ロシアがウクライナと戦争を続け、中央アジアへのコミットが「おろそか」になりがちな状況下において、中国が官民一体で同地への影響力拡大に動くのは必至であり、今後ますますこの傾向は強まるでしょう。機会を見つけ、ほかの3カ国にも足を運んでみたいと思います。