「クロス円」のいわれ
ドル以外の通貨の対円通貨は総称として「クロス円」と呼ばれています。なぜ「クロス」なのかといいますと、まだ、マーケット規模が大きくない時にスイス/円やカナダ/円などのレート(プライス)は、ドル・スイスとドル/円のレート、あるいはドル・カナダとドル/円のレートから算出していました。
例えば、スイス/円の買いのレートは、ドル・スイスの「売り」のレート(ドル売り・スイス買い)とドル/円の「買い」のレート(ドル買い・円売り)を使って、スイス買い・円売りのレートを算出していました。このようにそれぞれの通貨の「売り」と「買い」のレートをクロスすることによって算出していたため、「クロス円」と呼ばれていました。
スイス/円は、ドル/円をドル・スイスで割って算出するため、割り算通貨とも呼びますが、ポンド/円や豪ドル/円は、「掛け算通貨」と呼ばれています。
例えば、ポンド/円の買いは、ポンド・ドルの「買い」のレート(ポンド買い・ドル売り)と、ドル/円の「買い」のレート(ドル買い・円売り)を掛け算して、ポンド買い・円売りのレートを算出します。「買い」と「買い」のレートを使うため、クロスしていませんが、これら掛け算通貨も合わせて「クロス円」と呼ばれています。
なかなかややこしい話ですが、こういう仕組みになっているのだなと読み流していただければ十分です。
今や、電子取引で自動的に瞬時に計算されるため、あるいは、クロス円単体でのマーケット規模が大きくなっており、算出しなくてもクロス円のプライスが立つマーケットができあがっているため、その仕組みを理解する必要はないですが、昔は、為替ディーラーが最初に直面する青春の門でした。「(計算が)遅い!」と何回も怒られたものでした。
さて、8日と9日の相場の話に戻りますが、8日にドル/円が110円を割れ、109円半ばまで円高になったのは驚きましたが、それまでに111円以上を買い過ぎたために反動で大きく円高に動いたのかもしれません。また、クロス円の円ショートポジションが巻き戻されたことが、円高を後押ししたようです。
先週お話したIMM(米国シカゴにある通貨先物市場)の円ショートは、6日時点ではほとんど減っていない状況でしたが、主要8通貨に対するドルの売り越し規模は、4月中旬以来およそ3カ月ぶりの低水準となっています。FRB(米連邦準備制度理事会)の政策変更によるドルの先高観から、ドルの売りポジションの解消が続いているようです。
ドルの売り越しとは他の通貨の買い越しになります。ドルの売りポジションの解消とは、ドルの買い戻し、他の通貨の売り戻しとなります。クロス円でいうと、クロス円の買いを解消するために売るということになります。ドル/円が思いもかけず109円台半ばまで下落したのは、クロス円の売りも後押ししたようです。