中国はバッハIOC会長との関係を“良好”にマネージしている
IOCとの関係をめぐって、意思疎通や政策協調を含めたちぐはぐさが見られ、それらのプロセスが国民の理解を得られていないように見受けられる日本とは異なり、中国は、北京冬季五輪を開催する上でカギを握るIOCとの関係を“良好”にマネージしているとの印象を私は抱いています。
5月7日、習主席が、日本でも度々ニュースに出てくるバッハ会長と電話会談をしました。習主席は、引き続きIOCと協力し、東京五輪の開催を支持すること、ワクチン協力を強化すること、そのうえで、アスリートの安全な参加プロセスを促すことなどを伝えました。
IOCの立場からすれば、当然東京五輪を開催したいでしょうから、それをサポートする意思を示すことで、東京五輪開催をめぐって苦境にあるバッハ会長に恩を売ろうとしているのでしょう。
習主席はまた、来年2月に開催予定の北京冬季五輪を予定通り開催するために、中国政府が各方面の準備を着々と進めている旨を報告しました。
それによれば、現在、すべての会場はすでに竣工(しゅんこう)しており、競技日程や会場運営、セキュリティーなどについても準備が進んでいて、今年の下半期には各種リハーサルを行い、万全の体制で五輪当日を迎えるべく準備を進めているとのことです。
中国外交部の発表によれば、バッハ会長は中国が各国に先んじてコロナ抑制に成功し、経済再生を実現したことを評価。ワクチン供給などで中国政府と協力を強化することを表明し、『五輪憲章』に基づき、五輪の政治化に反対する旨を習主席に伝えたとのことです。
これらのやり取りを見る限り、中国政府は、戦略的ロビイングを通じて、IOC、特にバッハ会長と良好な関係を築いているように見受けられます。
コロナ発生後、WHO、特にテドロス事務局長との関係を重視、工作してきたように、北京冬季五輪の開催に向けて、引き続き、IOC、バッハ会長との関係を慎重かつ大胆にマネージしていくのではないかと思われます。
本レポートの最後に、マーケットへのインパクトについて考えてみます。以下の3点を指摘します。
まず1つ目に、北京冬季五輪開催うんぬんを抜きにして、中国がコロナの抑制に成功し、ワクチン接種率を高め、抑制の確率と強度をさらに上げることで、国民の経済活動が正常化、活性化することは、中国経済の成長にとって前向きな現象であると言えます。
故に、2つ目として、中国が来年2月に北京冬季五輪を開催するという動機から、コロナの抑制と経済再生に向けて全力を挙げることは、マーケットにとってプラス要因と言えるでしょう。ワクチン開発に従事する中国における医療系の銘柄の動きは注目に値します。
3つ目に、前述したように、中国が北京冬季五輪を開催する上で、最大の不安要素はコロナの抑制やワクチン接種の遅れではなく、新疆ウイグル人権問題を含めた政治的要因です。
これらの問題をめぐって、国際社会からの理解を得られるような自制的政策を取ることで、中国の国としての信用度が増すのであれば、それは、特に外国人投資家にとっての、中国マーケットの吸引力という意味で、前向きな動きになるように思います。
海外には、特に個人投資家の間で、中国共産党による高圧的な政策が原因で、中国という国自体を信用できない、投資するにも消極的、慎重にならざるを得ないという関係者が少なくないように見受けられます。
この不都合な現実を改善する上で、北京五輪へ向けた道のりが、一種の緩衝材になるのであれば、それは万人にとって良いことになるはずだと思います。