10年に一度の人口動態をめぐる国勢調査の結果が公表。14.1億人の“中身”

 中国は真の意味での大国か?

 皆さんどう思われますか?

 意見が分かれると察します。いろんな解釈や見方があるでしょう。

 容易に想像できるのは、「真の大国」には責任ある行動や、行動する過程での透明性が、自国の利益やメンツだけではなく、他国や国際社会全体の公益や秩序を考慮した政策が求められる。この意味で、中国はまだまだ「真の大国」とはいえない、という類いの指摘です。私もそう思います。

 ただ、仮に「中国は大国」という表現を絶対に否定できない分野があるとしたら、それはまぎれもなく、人口でしょう。今回のレポートでは、中国の人口について扱います。

 5月11日、中国国家統計局が、2020年に実施した国勢調査の結果を発表しました。中国では、人口動態を把握するための国勢調査を10年に1回行っており、今回で7回目になります。要するに、10年に一度しか発表されない統計データが明るみになったということであり、注視、分析に値するものです。

 調査結果によれば、中国の人口は2020年、14.1億人に達しました(香港、マカオは含まない)。前回調査が実施された2010年時ではまだ13億人台でしたから、「大台に乗った」という見方ができなくもないでしょう。その数は引き続き世界一、割合では全世界の人口の約18%を占め、5人弱に1人が中国人ということになります。

 注目に値するのは、人口の伸び率とその内訳です。中国国内でも、14億という数字よりも、こちらの推移や中身のほうに議論が集中しています。なぜなら、それこそが、中国の人口構造、経済成長、産業や社会の在り方などに長期的かつ根本的な影響を与える変数だからです。

 私自身の見方でいえば、人口という世界一の指標は、中国にとって、最大の武器にもなり、また最大の重荷にもなり得ます。

 というわけで、伸び率と内訳を見ていきましょう。

 2020年の14.1億人という数字は、2010年と比べると7,206万人、5.38%増えています。ただ、この期間の年平均伸び率は0.53%増で、2000年から2010年までの0.57%増(7,390万人増)に比べると鈍化していることが分かります。

 年代別に見てきましょう。私自身は、中国、例えば価値観や消費動向を分析する際に、世代間の比較というのは有益な方法であると考えてきました。

 14.1億人という総人口のうち、未来の働き手となる0~14歳の占める割合が17.95%、現在の働き手である15~59歳が63.35%、働き手に支えてもらう人が多くを占める60歳以上が18.70%、65歳以上が13.50%となっています。これらの数字は、2010年時と比較して、それぞれ1.35%増、6.79%減、5.44%増、4.63%増となっています。

 これらの数字の特徴は明白です。労働力人口が減り、高齢者人口が増えているというものです。

 国連の定義によれば、65歳以上の人口が全人口に占める割合が7%を超えれば「高齢化社会」に相当しますから、13.50%の中国はすでに立派な高齢化社会です。今回の発表を受けて、中国国内でも、中国はすでに初期、あるいは軽度の高齢化社会ではなく、高齢化現象が深いレベルに入っている、正真正銘の高齢化社会であるという議論がなされています。

 現在、世界一の高齢化社会は日本です。総務省の統計によれば、2020年、65歳以上の全人口に占める割合は28.7%(3,617万人)に達し、世界トップ。平均年齢も48.9歳と世界トップです(2位:イタリア47.8歳、3位:ドイツ47.4歳、4位:韓国43.1歳、5位:フランス41.9歳)。

 11日、記者会見に臨んだ寧吉哲(ニン・ジージャー)統計局局長は、今後、中国の人口がどの時点でピークに達するかは不確定だが、将来における一定期間内は14億以上を保持するだろうとした上で、「我が国において、16歳から59歳の労働人口は8.8億人いて(筆者注:2010年から4,000万人減少)、労働人口資源は依然豊富である」と指摘しています。

 また、今回の統計を経て、中国の平均年齢が38.8歳で、米国が最近発表した38歳という最新の統計とほぼ同じであることが分かったと主張しました。中国は依然その豊富で活力に富んだ労働資源を後ろ盾に、経済成長していける見込みだと訴えたかったのでしょう。

 ちなみに、世界第2位の人口で、すでに13億人を超え、近い将来中国を追い抜くと見られるインドの平均年齢は28.1歳です。

 過去10年、私自身、中国で人口や高齢化に関する議論に参加してきましたが、中国の政策関係者や知識人、そして一般の国民まで、最も気になる、故に比較する国が日本であるようです。

 日本が同じアジアの国家であること、中国も日本のように、高度経済成長の過程で、五輪や万博を開催し、高速鉄道(日本の新幹線に相当)を整備し、国民生活を豊かにしてきたこと、一方で、公害問題、不動産バブル、そして高齢化問題を抱えていること、など発展の経緯、問題点といった意味でも、類似性を見出しているようです。

 ただ、そんな中国の人々が、日本と決定的に違うと捉え、深刻に捉えているのが、「未富先老」、つまり富む前に老いている、という現象です。それに比べて、日本はバブル崩壊から30年以上が経過した今に至って深刻な少子高齢化問題に直面してはいるものの、「先富後老」、つまり富んでから老い始めた、という経緯をたどったという比較です。

 確かに、65歳以上の人口が13.5%を占めるという、中度の高齢化社会に突入し、今後そのペースが加速する可能性が極めて高い中国の一人当たりGDP(国内総生産)は、ようやく1万ドルを突破した程度です(日本は現在約4万ドル)。

 国民経済として富む前に社会が高齢化に突入し、しかもその高齢化が、将来的な富の蓄積や経済の成長にとっての足かせになる、という“人口リスク”が、今回の国勢調査を通じてますます顕在化したといえるでしょう。