“二人っ子政策”の撤廃はあるか?高齢化社会向けのビジネスは盛り上がるか?

 以上、私自身が注目した14.1億人をめぐる内訳や推移を整理してきました。本レポートの最終部分として、人口動態と経済成長という観点から、私が現時点で重要だと考える3つのポイントを書き記しておきます。

 1つ目に、「二人っ子政策」が撤廃されるか否かです。

 前述のように、中国では労働人口の減少と高齢化現象が著しい規模と速度で発生しています。これを放置する選択肢は党・政府にはないでしょう。

 故に、2016年以降、中国政府はこれまでの「一人っ子政策」を修正し、「二人っ子政策」に切り替えています。これを受けて、「2016年、2017年、我が国の出生人口は大幅に増加、それぞれ1,800万人、1,700万人となり、“全面的二人っ子政策”を実施する前に比べて、それぞれ200万人、100万人以上増えた」(寧吉哲局長)と言います。

 ただ、その後、2018年以降の出生人数は減少し、2020年の出生数は1,200万人と低迷しています(現時点で、出生数における二人目の割合は45%前後)。寧局長は「この規模は依然小さくない」と指摘していますが、不安要素であることに変わりはないでしょう。

 そんな中、すでに東北地方など一部地域で段階的、条件付きで実施されているように、3人目を許容する政策、もっと言えば、計画生育そのものを撤廃する政策が、いつどのタイミングで打ち出されるかは極めて重要ですし、私が知る限り、共産党指導部は、現時点ですでに綿密かつ現実的な撤廃に向けたロードマップを描き始めています。

 2つ目に、人数が増加し、寿命が延びる高齢者たちの定年退職の時期をどう扱うかです。

 中国では、地域や業種にもよりますが、一般的に男性は60歳、女性は50歳で退職します。民間企業では、それぞれ65歳、55歳までという状況もあります。もちろん、副業や兼業が当たり前の中国では、世間的に退職したとしても、引き続き何らかの形で働いている人はゴマンといます。

 例えば、私の知り合いで、広東省の公立病院で小児科医として働いていた女性は、50歳で退職しましたが、その後は「フリーランス医」として、個人的人脈を生かしながら“パートタイム”で働いていて、現役時代の3倍以上の報酬を得ています。

 労働人口が減っていくなかで、例えば定年退職の時期を、男性65歳、女性60歳のような形で伸ばすのか否か。人口規模を考えれば、この手の措置を取るだけでも、労働市場に与えるインパクトは巨大なものになります(中国では、60歳以上の人口のうち、60~69歳が55.8%を占める)。

 一方で、デジタル化など生産性の向上、AI(人工知能)やロボットの開発と普及といった分野は、中国で急速に進んでいます。若干極端な問題提起になりますが、これらの分野を大々的に進化させることと、高齢者に「人手」として働いてもらうこと、経済にとってどちらが効率的、生産的なのかといったことも、社会保障や財政圧迫などと同様に、中国政府は政策決定の指標として捉えていることでしょう。

 これに関連するのが3つ目です。高齢者が労働力としてどの程度活躍するかに関しては、議論の余地があるものの、消費者という立場で言えば、高齢者の増加、高齢化社会の進行をビジネスにつなげない選択肢はないでしょう。

 ここで真っ先に思い浮かぶのは養老産業です。今後高齢者が、余生を過ごしていく過程で、衣食住や余暇をどう満たしていくのか。

 私自身の観察や経験からすれば、中国の人々は、家庭内、世代間の結びつきが強く、下の世代が上の世代を介護施設に「丸投げ」するようなやり方に抵抗を感じる人が少なくありません。家族は、世代を超えてみな一緒に住み、助け合って生きていくべきだという慣習が根付いています。

 故に、高齢者そのものをターゲットとするサービス、施設、商品、というよりは、高齢者のニーズを切り口、皮切りに、その高齢者が属する家族やコミュニティー全体を巻き込んでいけるような養老ビジネスが、中国の国情や中国人の国民性に合っているのかなと思います。

 今後、養老産業で上場する中国企業、このマーケットに参画する外資企業などは増えていくでしょう。大きな方向性として、政府も段階的に各種規制を緩和し、ライセンス認証の門戸を広げていくものと思われます。

 高齢化社会を経済成長に戦略的に活用しようという中国政府の意識や攻めの姿勢は、ほとんどの国を凌駕(りょうが)するものだと私は捉えています。日本の実業家や投資家も、中国で起きているそういうダイナミクスにうまく乗っかっていけるといいです。