二つめに、中国共産党としても、米国と日本との関係を全面的に悪化させたくない、アジア太平洋地域において「日米同盟vs中国台頭」という構造が既成事実化するのを嫌がっているということです。それによって、外交的に孤立する、中国経済への不確実性やダメージが増すといった懸念あり、また、中国共産党の内部でも、米国や日本との関係を安定的に管理することなしに、中国の近代化や改革開放はあり得ないといった声も小さくありません。

 そんな中国の考えを立証する状況証拠になると私が考えるのが、中国政府が、日米首脳会談と時期を同じくして、バイデン政権で気候変動問題を担当するジョン・ケリー大統領特使の訪中を受け入れ、上海で解振華(シエ・ジェンファ)気候変動担当特使と会談した事実です。会談後、両特使は気候変動に関する共同声明を発表しました。その中で、習近平国家主席の出席いかんが焦点となってきた、バイデン大統領主催の気候変動サミット(4月22~23日)に期待を寄せ、その目標に賛同するとまで明記しました。

 その後、ケリー特使は、韓正(ハン・ジェン)国務院副総理兼政治局常務委員(中国共産党序列7位、上海市元書記)とのオンライン会談に臨み、気候変動の分野における米中間の対話と協力を確認し合いました。中国共産党指導部に、競争や対立が激化するなかにおいても、米国との関係を何とかつなぎとどめておきたいという政治的意思がなければ、日米首脳がかつてないほどに対中けん制で共同作業を進めている最中で、米国との歩み寄りを演じたりはしません。

 そんな党指導部の思惑を裏付けるかのように、筆者が本稿を執筆している4月21日午前現在、習近平国家主席がバイデン大統領の招待に応じる形で、北京からテレビ画面を通じて、22日の気候変動サミットに出席し、重要談話を発表すると、中国外交部の華春瑩(ファー・チュンイン)報道局長が公表しました。

 本連載でも適宜検証してきましたが、バイデン政権発足後の米中関係は、トランプ政権時同様に、戦略的競争を基調に、経済、安全保障、人権といった分野で常に探り合う、罵(ののし)り合う、けん制、警戒、対立し合う関係に終始するでしょう。ただ、そこには、競争のなかに協力あり、対立のなかに対話あり、衝突のなかに連携あり、という前提が横たわっています。そして、トランプ政権と異なる点として、バイデン政権は、プロフェッショナリズム(専門性)への執着という観点を含め、政策の安定性、連続性、予見性を重視する傾向が見出せます。

 そして、中国側もその傾向を歓迎し、米国側との意思疎通に我慢強く付き合っていこうとしているのです。この現状は、米中対立をリスク要因と見なし、嫌がってきたマーケットにとっては、安心材料になり得るといえるでしょうし、米中が目下最も協力する、連携できる可能性のある気候変動という分野に、日本の政府や企業も、きちんとコミットしていくべきだと思います。