「中国」を名指しでけん制し、「台湾」に触れた日米共同声明
日米首脳会談を、習近平(シー・ジンピン)国家主席率いる中国共産党は固唾(かたず)をのんで見守っていました。特に会談後の共同声明で「中国」をどう記述するかに注目していました。結果、日米首脳共同声明(※1)では「中国」を名指しで批判、けん制しました。
日米政府は、「経済的なもの及び他の方法による威圧の行使を含む、ルールに基づく国際秩序に合致しない中国の行動」について懸念を共有し、「南シナ海における、中国の不法な海洋権益に関する主張及び活動への反対を改めて表明」し、「香港及び新疆ウイグル自治区における人権状況への深刻な懸念を共有」したなどと声明には書かれています。3月に東京で開催された日米外相、防衛相による安全保障協議委員会(日米「2+2」)(※2)後の共同発表でも、中国を名指しでけん制、批判しましたが、今回の首脳会談はそれを踏襲するものです。
これまで、日米両国は、中国の政策や言動をけん制する際、中国を必要以上に刺激するのは費用対効果が悪いと判断してきたこともあり、名指しを回避してきた経緯がありますが、今後、日米間では、中国への名指し批判が常態化するかもしれません。実際に、私の観察によれば、中国共産党は、自らが同席していない場で中国が議論されること、特に公式文書で名指しされることを極端に嫌う傾向があります。名指しされたかどうかによって、反応や対処の強弱にも著しい変化が起こるのが常です。
日米首脳共同声明の歴史の中では、1969年の佐藤・ニクソン会談以来、およそ半世紀ぶりに「台湾」に言及したという点も特筆に値します。「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と、懸念やコミット(関与)を明記しました。
中国への名指し、「台湾」への明記を含め、今回の日米首脳会談や共同声明は、中国を刺激する、激怒させるには十分すぎるほどの内容、次元であったといえるのです。
加えて、今回、共同声明に付随する形で発表された文書「日米競争力・強靱性(コア)パートナーシップ」(※3)でも、中国が赤裸々に意識、けん制されていました。例として、競争力・イノベーションを扱ったこの文書には、次のような記述が含まれています。
・5G及び次世代移動体通信網(6G又は Beyond 5G)を含む安全なネットワーク及び先端的なICTの研究、開発、実証、普及に投資することによって、デジタル分野における競争力を強化
・共通の脅威に対処するための日米両国のパートナーのサイバーセキュリティー能力を構築
・半導体を含む機微なサプライチェーン及び重要技術の育成・保護に関し協力
・共同研究及び研究者の交流を通じた、量子科学技術分野における研究機関間の連携及びパートナーシップを強化
5G(第5世代移動通信システム)やサイバーセキュリティーは、近年中国が影響力を拡張し、欧米や日本を含めた西側諸国を中心に、国家安全保障の観点から中国の官民一体による動向を警戒してきた経緯があります。半導体に関しては、特に米中“デカップリング”(切り離し)が騒がれるなか、サプライチェーンの問題が顕在化し、経済のブロック化すら起こり得る分野です。量子科学技術分野の研究は、中国共産党が国家戦略の観点から、基礎研究を中心に「十年行動計画」で振興させようとしている分野です。
日米が首脳会談を通じてこれらの分野における協力や連携を強化するというのは、「中国との競争に打ち勝つ」と明言しているバイデン大統領の政治的意思を踏襲するものであり、中国共産党が「日本は米国の対中封じ込めに加担しようとしている」と受け取るのは必至です。