5.個人向け国債(特に「変動10」)自体はいい商品だが商品を売る「人」には気をつけなければならない

 失敗のパターンは2つある。1つは、個人向け国債を買いに行った時に、投資信託や貯蓄性の保険など別の商品のセールスに乗せられてしまう場合。もう一つは、個人向け国債購入の1年後に、「解約できるようになりました!」と言って別の商品への乗り換えを勧められるケース。どちらにも、絶対に乗ってはいけない。

6.低成長が株価に織り込まれた株式を買うと、リスクなりの超過リターンがあるはずだ

 たとえば、「日本は人口が減り低成長なので、日本株に投資しても儲からない」と考えるのは間違いだ。高成長の企業の株価は高く、低成長の企業の株価は低く、それぞれにリスクに見合う割引率(リスクフリー金利+リスク・プレミアム)でプライシング(価格付け)されているはずであり、投資家の期待リターンはともに「割引率」だ。将来の問題は、予想した利益よりも、高い成長になりそうなのか・低い成長になりそうなのか、という将来の「予想の変化」だ。

7.金保有のリスクは、資本を提供する投資のリスクではなく、ゼロサム・ゲーム的な投機のリスクだ

 この設問は少々微妙だが、金保有のリスクが将来の価格を当てようとするゼロサム・ゲーム的な投機のリスクであり、前問でいうリスク・プレミアムが期待できるような資本を提供する投資のリスクではないことは確かだ。大物投資家では、米国のウォーレン・バフェット氏はこうした立場だ。一方、レイ・ダリオ氏のように、インフレ・リスクへのヘッジ効果を認めて金を少々ポートフォリオに含めることに対して肯定的な考え方もある。彼らの考え方については、アンソニー・ロビンズ著「世界のエリート投資家は何を考えているのか」(鈴木雅子訳、三笠書房。筆者は解説を書いています)をご参照ください。

8.リスクも期待資産額も時間と共に拡大する。リスクを決めるのは、期間ではなく「財務的強さ」だ

 同じ年当たりのリスクでも「年率のリターンの」上下の幅は投資期間が長くなると小さくなって行くが、これに対応する資産額の上下の幅は期間とともに拡大するのであって、リスクに対する正しい見方は後者である。ただし、期間が長期化すると、収益の期待値も拡大する。大まかに言うと、運用期間の長短は適切なリスク資産比率に影響しない。

 傾向として若者が金融資産の中に占めるリスク資産の比率が大きくてもいい理由は、高齢者と比較して、人的資本が大きい一方で、保有する金融資産が小さい傾向があるからだ。小さな金融資産の中で大きな比率でリスクを取っても、影響が比較的小さい。つまり、人によって差があるので(たとえば、若くても病弱なら人的資本が小さい)、「リスクの大きさは、財務的な強さで決めるべきだ」という原則を守ることが大事だ。

9.将来の運用成績を予想する方法はない。「目利き」ができると言うのは無責任

「投信は過去のパフォーマンスくらい見てから選びましょう」、「アクティブ・ファンドはどのファンドを選ぶのかが大事です」、といった台詞をよく聞くが、こういう事を言う人を信用してはならない。いずれも、現実には不可能な「将来、相対的に優秀なアクティブ・ファンドを現時点で事前に選ぶ」ことができないのに、「いいアクティブ・ファンド」を選べるかのように言っているからだ。将来運用成績の良いファンドを選ぶ「目利き」など、誰もできないのだから、誰かができるかのようなことを言う嘘つきを相手にしないほうがいい。

10.課税所得のある人はiDeCoがまずは有利。つみたてNISAは、併用すべき投資教育教材

 本問も、少々微妙な面がある。まず、教科書的な「正解」を言うなら、現在の制度を前提とすると、課税される所得がある人は掛け金が所得控除されるiDeCoが圧倒的に有利なので、iDeCoを使えるだけ使うことが正しい場合が多いだろう。つみたてNISAも悪くないのだが、積立投資する人は給与などの課税所得がある人がほとんどだろうから、「先ずはiDeCoを使うことを考えてみてください」と言うのが、金融庁の掲げるフィデューシャリー・デューティーの精神に適ったアドバイスだろう。

 ただし、iDeCoだけでは老後の生活のために必要な貯蓄・運用が不足する人がほとんどだろうし、これとは別にほとんど金融資産のない人の場合、60歳までお金を引き出せないiDeCoの利用が不都合な場合もあるだろう。こうした人の場合、つみたてNISAから投資を始めるという考え方もあり得るだろう。つみたてNISAは、金融庁が不適切な運用対象を大きく除外してくれたこともあって、失敗しにくい投資の仕組みになっている。これから貯蓄と投資を始める若い資産形成層に属する人の場合、理想的には、iDeCoの枠を使った上でつみたてNISAを併用するといいだろう。

【補足】

 2017年公開で比較的最近の記事であり、しかもETFカンファレンスに用意した題材なので、今見て内容的に訂正したい箇所はない。否定される対象となった10の命題は、金融機関のマーケティングだけではなく、FP(ファイナンシャル・プランナー)などの書籍にもしばしば「正しい話」として登場することがあるので、金融情報の発信者の力量を評価する上で大いに使って欲しい。「お金の運用は、専門家風の他人の話を聞くのではなく、自分で考える方がいいのだな」と読者に思って貰えたら嬉しい。
(2021年4月18日 山崎元)