(5)現在の環境での債券部分
現在のような長期国債利回りがゼロに貼り付いた状態では、資産として債券を保有する意味が疑わしい。国内債券の典型的なベンチマークはNRI−BPIだが、こうした債券ポジションであれば、将来金融政策が正常化されて長期国債の利回りが上昇するときに大きく値下がりすることが避けられない一方、現在の期待利回りはゼロである。
過去に、債券利回りが自然に形成され、特に金利低下による債券価格上昇のメリットがあったときは、株式と債券を組み合わせる意味があったが、現在の国内債券の状況は過去と大きく異なる。昔良かったことが、そのまま将来に当てはまるわけではない。過去のデータを参考にしていい場合と、そうでない場合があることを知るべきだ。
個人の場合、今なら、バランスファンドを通じて無駄な債券ポジションを持つよりは、その金額の分個人向け国債変動金利10年満期を持つほうが得だ。
(6)iDeCoやNISAに向くか?
前述のように、iDeCoやNISAのようなリターンに対する税制優遇がある口座には、内外の株式のような期待リターンの高い資産を集中するほうが有利であり、バランスファンドに投資してしまうと税制優遇のメリットを最大限に使うことができない。
たとえば、つみたてNISAなら、株式・債券が半々のバランスファンドに2万円積み立てるよりは、株式だけのファンドに1万円積み立てるほうがいい(手数料が節約できるから)。もちろん、余裕があれば、株式だけのファンドに2万円でもいい。
確定拠出年金にも、「ライフ・サイクル型」「ターゲット・イヤー型」などと称して、いかにも年金向きに見せかけた商品がラインナップされることがあるが、これらはバランスファンドであり、実は、確定拠出年金の税制優遇制度を十分に使えない不適切な投資対象である。
(7)手数料は妥当か?
一般に、内外の株式のインデックス・ファンドを自分で組み合わせて、債券部分は個人向け国債でも買うほうが、同様のリスク内容のバランスファンドに投資するよりも支払手数料が安い。近年、バランスファンドであっても手数料の低廉な商品が出て来ているが、バランスファンドの場合、「債券部分の運用にも、それなりの手数料を払っている」ことになるような無駄が生じている。
「初心者にはバランスファンドが向く」という話が嘘だとわかった以上、無理にバランスファンドを買わせようとしないほうがいいのではないだろうか。特に、FP(ファイナンシャル・プランナー)のような他人にアドバイスをする職業の人には気を付けて欲しい。「素人にすすめやすいから」とか「私は好きだから」といった不適切な理由で、アドバイスの内容が左右されるようでは、正しいプロフェッショナルとは言えない。
【コメント】
2017年に公開された割合最近の記事でもあり、論点に修正や補足はない。「一見良さそうに思うかも知れないけれども、(ごく一部の例外を除いて)バランスファンドは論理的な段階で明確にダメなのだ」ということなのだ。
それでも、投資家向けのイベントなどに登壇すると、「初心者にはバランスファンドもいいのではないですか」と言いたがる他の登壇者は少なくない(初心者を自分並以下に「無知な人」扱いするのは良くない!)。筆者は時に肩身の狭い思いをすることがある。
バランスファンド擁護者は、(1)リスクの調整が投資金額で出来ることを分かっていない、(2)バランスファンドを持っても投資家がアセット・アロケーションの問題から解放されないことを分かっていない、(3)株式と債券のリスク分散効果について過去30年程度のデータを当てはめようとしている(今はゼロに近い特殊な金利状況なのに)、(4)たぶん過去の著作や発言などでバランスファンドを勧めたことがあるので引っ込みがつかない、といった理由を持っているものと推測される。厳しすぎる言い方かも知れないが、彼らは、他人に運用のアドバイスをするには不適格だ。
(2021年3月1日 山崎元)