※本記事は2017年11月21日に公開したものです。

 株式と債券など複数の資産クラスを含むファンドを『バランスファンド』と呼ぶ。バランスファンドは、投資信託などで古くから商品化されており、歴史は長い。実は、筆者は、投資信託のファンドマネージャーになったときに最初に担当したファンドはバランスファンドだった。運用者にとって、バランスファンドの運用は楽しい仕事だ。株式と債券のそれぞれで、そしてアセット・アロケーションでと、取り得る戦略の選択肢が広いからだ。

 しかし、月日が経って、今日、個人投資家の立場でバランスファンドについて考えると、正直、バランスファンドは個人投資家にとって良い運用対象だと思えない。投資について、本を書いたり、講演で話したりする人達の間では、筆者は「バランスファンド嫌い」だと認識されているようだ。もとより、他人に対する運用のアドバイスは、好き嫌いを根拠に行うべきものではない。今回は、バランスファンドについて複数の論点を検討する。

(1)バランスファンドは初心者向けか?

 バランスファンドは初心者向けだという意見がある。

 そもそも、初心者でもベテランでも非効率的な運用は好まないはずなので、「初心者向け」と言う人の良心は疑ってみるべきだが、バランスファンドは株式100%のファンドよりもリターンの変動がマイルドであることが多いので、保有している人から見て精神的に楽であることは多いだろう。筆者がかつて運用していたファンドも含めて、バランスファンドは「大損しにくい無難な商品」として売られる場合が多い。

 また、多くのバランスファンドで、アセット・アロケーション(資産配分)の決定や調節をファンドの側でやってくれるので、こうした意思決定や調節に慣れていない投資家にとって気楽な面はある。しかし、仮に、おおよそ株式50%と債券50%で運用するとされているバランスファンドを考えてみよう。

 このファンドに200万円投資している投資家は、運用報告書などを見て、株式への投資比率が50%なら、「株式に100万円投資しているリスクを取っているのだな」と把握することができるが、そうしない場合、漠然と「株式に100%投資するファンドの半分くらいのリスクだ」と思うしかない。また、現実にはそこまできちんと把握してバランスファンドに投資している投資家は少ないだろう。中身を把握して運用するにはバランスファンドではなく個別の資産に投資するファンドに自分で金額を決めて投資するほうが良い。また、中身が把握できていない状態で漠然とバランスファンドに投資することがいいとは思えない。初心者だからといって、投資家を馬鹿にしてはいけないと、筆者は思う。

(2)複数口座におけるバランスファンド

 近年の個人投資家は、証券会社の課税口座(たとえば「特定口座」)に加えて、確定拠出年金の個人型は「iDeCo」、「NISA(少額投資非課税制度)」、「つみたてNISA」など、複数の口座で資産を運用することが多い。

 複数口座での運用では、自分の運用の合計を最適な状態に管理する必要がある。

 この際に、自分の運用の中にバランスファンドを混ぜると、自分が内外の株式をいくら、債券をいくら持っているのかを把握することが面倒になる。

 また、iDeCoやNISAのようなリターンに対する税制優遇がある口座には、内外の株式のような期待リターンの高い資産を集中するほうが有利だが、バランスファンドに投資してしまうと税制優遇のメリットを最大限に使うことができないのでもったいない。

(3)資産配分に期待できるか?

 バランスファンドの売り手は、「素人には難しいアセット・アロケーションを、プロに任せることができる」とセールスするが、プロであっても、株が上がる前に株式への投資比率を増やすような「マーケット・タイミング」を適切に判断してリターンを追加することはできない、というのが、年金運用など機関投資家の世界の常識だ。

 投資家はバランスファンドの運用者に過剰な期待をしてはならないし、商品の売り手は素人をだましてはいけない。

(4)資産配分固定ならいいのか?

 タイミングを見た資産配分の調整は難しい。また、バランスファンドは投資家にとって、中身の把握が面倒だ。このことを知っている人は、「固定比率のバランスファンド(たとえば8資産の比率を固定するようなもの)ならいいのではないか」と立論することがある(そうまで言って、バランスファンドを正当化したい理由が謎だが)。「資産配分が固定されているので、中身は把握しやすいし、リバランスが定期的に行われるので、便利ではないか」と言う。

 しかし、バランス固定であっても、課税が優遇される口座に債券を含む商品を持つのは無駄だし、債券部分の運用に関しても手数料を払うのは余計ではないか。また、資産の把握は、「外国株式インデックス・ファンド」、「TOPIXインデックス・ファンド」などを個別に持っているほうが把握しやすい。

(5)現在の環境での債券部分

 現在のような長期国債利回りがゼロに貼り付いた状態では、資産として債券を保有する意味が疑わしい。国内債券の典型的なベンチマークはNRI−BPIだが、こうした債券ポジションであれば、将来金融政策が正常化されて長期国債の利回りが上昇するときに大きく値下がりすることが避けられない一方、現在の期待利回りはゼロである。

 過去に、債券利回りが自然に形成され、特に金利低下による債券価格上昇のメリットがあったときは、株式と債券を組み合わせる意味があったが、現在の国内債券の状況は過去と大きく異なる。昔良かったことが、そのまま将来に当てはまるわけではない。過去のデータを参考にしていい場合と、そうでない場合があることを知るべきだ。

 個人の場合、今なら、バランスファンドを通じて無駄な債券ポジションを持つよりは、その金額の分個人向け国債変動金利10年満期を持つほうが得だ。

(6)iDeCoやNISAに向くか?

 前述のように、iDeCoやNISAのようなリターンに対する税制優遇がある口座には、内外の株式のような期待リターンの高い資産を集中するほうが有利であり、バランスファンドに投資してしまうと税制優遇のメリットを最大限に使うことができない。

 たとえば、つみたてNISAなら、株式・債券が半々のバランスファンドに2万円積み立てるよりは、株式だけのファンドに1万円積み立てるほうがいい(手数料が節約できるから)。もちろん、余裕があれば、株式だけのファンドに2万円でもいい。

 確定拠出年金にも、「ライフ・サイクル型」「ターゲット・イヤー型」などと称して、いかにも年金向きに見せかけた商品がラインナップされることがあるが、これらはバランスファンドであり、実は、確定拠出年金の税制優遇制度を十分に使えない不適切な投資対象である。

(7)手数料は妥当か?

 一般に、内外の株式のインデックス・ファンドを自分で組み合わせて、債券部分は個人向け国債でも買うほうが、同様のリスク内容のバランスファンドに投資するよりも支払手数料が安い。近年、バランスファンドであっても手数料の低廉な商品が出て来ているが、バランスファンドの場合、「債券部分の運用にも、それなりの手数料を払っている」ことになるような無駄が生じている。

「初心者にはバランスファンドが向く」という話が嘘だとわかった以上、無理にバランスファンドを買わせようとしないほうがいいのではないだろうか。特に、FP(ファイナンシャル・プランナー)のような他人にアドバイスをする職業の人には気を付けて欲しい。「素人にすすめやすいから」とか「私は好きだから」といった不適切な理由で、アドバイスの内容が左右されるようでは、正しいプロフェッショナルとは言えない。

【コメント】

 2017年に公開された割合最近の記事でもあり、論点に修正や補足はない。「一見良さそうに思うかも知れないけれども、(ごく一部の例外を除いて)バランスファンドは論理的な段階で明確にダメなのだ」ということなのだ。

 それでも、投資家向けのイベントなどに登壇すると、「初心者にはバランスファンドもいいのではないですか」と言いたがる他の登壇者は少なくない(初心者を自分並以下に「無知な人」扱いするのは良くない!)。筆者は時に肩身の狭い思いをすることがある。

 バランスファンド擁護者は、(1)リスクの調整が投資金額で出来ることを分かっていない、(2)バランスファンドを持っても投資家がアセット・アロケーションの問題から解放されないことを分かっていない、(3)株式と債券のリスク分散効果について過去30年程度のデータを当てはめようとしている(今はゼロに近い特殊な金利状況なのに)、(4)たぶん過去の著作や発言などでバランスファンドを勧めたことがあるので引っ込みがつかない、といった理由を持っているものと推測される。厳しすぎる言い方かも知れないが、彼らは、他人に運用のアドバイスをするには不適格だ。
(2021年3月1日 山崎元)