マーケットをどれだけ信じるか

 投資家に残された問題が3つある。

 1つはマーケットに正しく株価を付ける能力があるのかということであり、もう1つは利益成長率の予想がどのように変動するのかということであり、最後に自分は利益成長率の予想ゲームにあって優位に立てるのかということだ。

 あとの2つについて補足するなら、理論株価は「市場参加者が抱く利益予想の見通しに対して」形成されるものだ。現実の利益の推移は、あくまでも市場参加者の予想に影響を与える点で重要なのだ。

 3つの問題の中で、最も重要なのは、マーケットの価格形成能力を信じるか否かだろう。

 マーケットがときどきは間違えるのだとしても、正しい価格を実現する傾向を持っているのでなければ、利益成長率がわかっていても、あるいは利益成長率を当てるゲームで優位をもっているのだとしても、投資が上手く行くと期待できる根拠がなくなってしまう。

 率直に言って、マーケットはときどき間違えるように思う。市場の価格全般におよぶ間違いをすることもあれば、個々の銘柄の価格形成に関して大きく間違えることもある。とはいえ、マーケットは、少なくともときどきは正しい方向に向かって価格(株価)を形成しているように思われる。常に信じるわけにはいかないし、ときどき疑ってもいいのだが、ある程度はあてにしてもよさそうだ。

 一方、利益は予想しにくい形で変動するし、特定の市場参加者が、利益予想を他の市場参加者よりも正確に行うことは簡単ではない。

 ちなみに、「利益予想の変化」が理論株価に与える影響は大きい。それがどのくらいの時間で株価に反映するのかについてはさまざまな意見があるだろうが、マーケットの価格形成が概ね正しく機能するなら、(1)高成長が期待されていたのに成長率が落ちた銘柄よりも、(2)低成長(あるいはマイナス成長)が期待されていてそれが少しマシに改善された銘柄のほうが、投資していた場合のリターンは大きい理屈だ。

 もっとも、個々の投資家にとって、高成長が予想されるマーケット(国単位の株式市場)あるいは銘柄がいいのか、低成長が予想されているマーケットあるいは銘柄がいいのかは、判断が難しい。

「両者は異なるが、どちらがいいのか判断できない」という前提条件での正しい(期待値として「得」な)意思決定は、両方を持つことだ。マーケットについても銘柄についても、成長率が高いものと安いものの両方に幅広く分散投資するのがいいのだ。

 投資家が最後に信ずるべきは、経済成長でも資本主義でもなく、マーケットの価格形成機能なのである。

追伸

 ところで、投資家は、「現在の」株価が、どのような利益成長率を前提にしているのか、あるいはその利益成長率に対してマーケットが正しい価格形成をしているのかを、知ることができない。先月(2018年2月)以来の内外の株価の下落や激しい値動きを見ると、現在の株価が高すぎるのではないか、あるいは、自分も含めた市場参加者の成長率の見通しが甘すぎるのではないかといった、「不安」や「嫌な感じ」を覚えるのではないか。

 しかし、この不安と嫌な感じの確かさこそ、市場での価格形成にリスク・プレミアムが含まれると期待できる最大の根拠なのだ。

 投資家にとって、不安は友達だ。不安があるからこそ、高いリターンが期待できる。

 

【コメント】

 本稿のテーマは、筆者が近年力を入れているものの一つだ。かなり経験豊富な投資家や本を書いているような人も含めて、「株式投資は対象企業や経済が成長しなければ儲からないのだ」という誤解に縛られている人が少なくない。彼らは、たぶん投資の「リスク・プレミアムの仕組み」を理解していない。筆者は、その点を指摘することに、いくらかの快感と、それにしてもなかなか理解が広まらないことへの苛立ちとを感じている。読者が、是非、他人に説明できるくらいにスッキリと理解してくれると嬉しい。
(2020年12月25日 山崎元)