3:Xさん(32歳既婚女性・国際機関勤務・大学院卒・ニューヨーク在住)の場合

 Xさんは上海の有名大学を卒業したいわゆるエリートで、米国東海岸にある某有名大学院でも学びました。長身で美貌を備え、英語が堪能。農村部の貧しい家庭に育ちましたが、自らの努力で這(は)い上がってきました。中国を離れて7年。親戚はほぼ全員中国国内にいるようです。この期間、彼女は仕事で得た給料で衣食住にかかる経費を満たしつつ、余ったお金をすべて中国国内の「理財商品」の購入に充てています。

 現時点では住宅ほどの大きな買い物をする原資がないという判断もあるようですが、彼女は大学卒業後一貫して、銀行の定期預金の2~3倍の利回りで、リスクが比較的少なく、安定的に収益を上げられる理財商品を常時複数購入することを、資産運用の核に位置付けてきました。

 最近彼女と話をしましたが、理財商品に投資してきた過去の7年を振り返って、平均すると、米国における年収(約800万円)の4分の1の収益が毎年上がっているとのこと。それを固定給に足すと、ちょうど年収は1,000万円くらい。リスクもそれほど高くなく、手間もあまりかからない、ただ銀行に預金しておくよりも利回りが高く、安定的に資産を伸ばしていけるこの手法が「私の性格や現時点における財布事情に合っている」とXさんは言います。

 しかも彼女は理財商品で得た収益を使って、田舎で暮らす両親に、150平方メートルほどの新居をプレゼントしたそうです。支払いは現金一括。親孝行ですね。中国では、儒教の中にある「孝」という精神は、ただ美徳というだけでなく、一種の身元整理のような意味合いもあるというのが私の理解です。以前、メキシコの海岸部にあるカンクンを旅行した際に、空港まで送ってくれたタクシーの運転手が、「ハッピーワイフ、ハッピーライフ!」と叫んでいましたが、妻や家族を幸せにしてこそ、自らの人生もハッピーになる、という人生哲学です。

 中国人の生きざまにも、この哲学が血液のように流れているというのが私の観察です。親孝行はそれ自体に価値があるというだけでなく、利回りの高い、安定収益を確保できる先行投資であると、多くの中国人は(口には出しませんが)、考え、動いているように見受けられます。