1:Qさん(37歳独身男性・ジャーナリスト・大学院卒・北京在住)の場合
中国では誰でも知っている著名な国営メディアで、経済を担当する記者として働くQさんとは、知り合って7年になります。聡明、イケメン、英語が堪能で、女性からの人気も高く、交友範囲も広いQさんですが、当初からの悩みが、国営メディアゆえの固定給の低さでした。大学院卒業後に入社した当初は月給5,000元(約7万5,000円)、いまでも1万元ほどです。北京という物価高の都市で、年収200万円以下でそれなりの暮らしをするのはまず不可能だと言えます。
国営メディアとはいえ、昔と違い住宅が支給されるわけでもなく、基本的な医療保険や年金以外に特別な保障があるわけでも、巨額の取材費が出るわけでもありません。衣食住、社交を含めて、すべて自分のお金で賄わないといけないのです。それでも彼は、5年前に200万元(約3,000万円)を出して、北京の郊外に住宅を購入しました。ローンではなく、キャッシュ一括払いです。30代前半の若者が、年収の15倍に相当する現金をボストンバッグに詰め込んで、一括で住宅を購入する光景を、皆さんは想像できるでしょうか。
また、彼は昨年、それまで乗っていたある日本車を売り払い、約20万元(約300万円)する日本車を新車で購入。その際も、売却時に手にしたお金以外に、15万元のキャッシュを用意して購入しています。
年収200万円に満たない彼が、いったいどのようにして住宅や自動車というお高い買い物をキャッシュ一括払いできるのでしょうか。
Qさんの場合、毎月の給料から、生活に必要な金額以外のほぼすべてを、元共産党の地方幹部で、株の売買を得意とする実父に渡しています。そこで得た収益の一部を両親への仕送りとし、残りは自らの生活費や社交費に充てているのです。
彼は、「父は原資が手に入って大好きな株取引に没頭できると喜んでいるし、そこで利益を上げれば上げるほど自らの取り分も増えるわけだから、モチベーションにもなる。私としても、親孝行と資産運用を同時進行でき、かつ手間も省けるから都合がいい」と心境を語ってくれました。
私から見て、Qさんのように、自らが都市部で懸命に働いた給料の一部を、地元の信頼できる、資産運用に長けた家族や親せきに預け、親孝行・家族サービスとしつつ、自らが都市部で生活していくための資金調達につなげるスタイルはとても普遍的です。
ちなみに、Qさんは5年前に購入した住宅を他者に貸し、その賃借料を社交費に充てる一方、自らは賃貸アパートに住んでいます。当然、5年前に比べて不動産は高騰しており、しかるべきタイミングに売却すれば、また収益を上げることが可能です。自らの職業、人脈、知恵などを駆使し、リスクヘッジや運用方法を何重にも張り巡らしつつ、「理財」に取り組んでいるのです。