2:Wさん(55歳既婚男性・政府官僚・大学卒・北京在住)の場合
Wさんは共産党の高級幹部の子孫で、いわゆる「太子党」と呼ばれる人種。非常に聡明、有能で、リベラルなマインドを持つ、局長級の経済官僚です。大学卒業後、政府機関に入省した当初は、まだ公務員に住宅を支給するという慣例が残っていたらしく、私もお邪魔したことがありますが、彼と妻は今でも北京市中心部にある約150平方メートルの住宅に住んでいます。今は独り立ちしている息子さんの部屋も残しています。
彼の資産運用の特徴は、全国各地にある魅力的な事業に、中長期的収益という見地から投資をするという手法です。その過程で、経済官僚幹部としての社会的地位を生かしつつ、情報収集をし、人脈や経験を駆使しながら、自らの資金を投入しているのです。ちなみに彼の月収は約1万5,000元(約23万円)で、すでに支給された住宅があるとはいえ、それなりの生活をする上で十分な資金とは言えません。
私の知っている限り、彼は常時10件ほどのプロジェクトに投資をしています。株主になることもあります。そのうえで、定期的にリターンが入ってくるように回しています。「自らの先見の明や投資案件への判断力などが試されるし、不動産投資よりもよっぽど面白い」と以前言っていました。約3年前、北京の彼の自宅で、「平均すると年間どれくらいのリターンが手元に返ってくるのですか?」と聞いてみると、「年によってまちまちだが、平均すると300万元くらい」と言っていました。約4,500万円、年収の約16倍です。
以前、彼の妻がある事業に失敗し、30万元(約450万円)の現金が必要になったとき、Wさんが私のもう一人の知人に「急なお願いですまないが、30万元貸してほしい」と手を合わせている現場に居合わせたことがありました。投資案件であれだけ稼いでいて、30万元なんて大した額ではないと疑問を感じましたが、後になって分かりました。Wさんは、リターンがくると、それを原資に即座に他の案件に投資をする習慣があり、故に、手元にキャッシュはほとんどない、とのことでした。
これも中国では普遍的です。
私は以前、中国での言論活動で「賭性(ドゥーシン)」という言葉で中国の国民性を表現したことがありますが、中国には思い切りや気前がよく、時にギャンブラーを彷彿(ほうふつ)させるような資金繰りに奔走している「民間投資家」が少なくありません。少しでも現金があれば、それを持つのではなく、増やすために投資先を探すのです。だから、手元にはキャッシュがほとんどなく、常時借金をしている状態なのです。それでも、そういう資産運用がエキサイティングで人生を楽しくし、しかも長期的には自ら、そして家族の資産が増えるという理にかなった手法を取っているのだといえます。