※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
以下のリンクよりご視聴ください。
[動画で解説]中国人の資産運用ってどうなってるの?実は、超投資先進国!?
---------------------------

マネー事情を知れば知るほど、中国は投資先進国?

 皆さん、「理財商品」って聞いたことありますか?

 中国国内で販売されている、比較的利回りとリスクの高い資産運用商品を指します。一種の投資信託商品です。融資先の債権を小口化して販売するなどしていて、金融市場をたびたび緊張させてきたシャドーバンキング(影の銀行)の代表的な商品と言えます(中国のシャドーバンキング問題について関心ある読者はこちらの記事を参照ください)。

 私も北京滞在中、中国工商銀行に赴いて手続きをする際に、理財商品の購入を勧めるポスターを何度も目にしたことがあり、そこには「30日短期」「45日短期」「利回り6%」「利回り8%」などと記されていました。私自身は株や債券、理財商品を買うことがないので、その体験を語ることはできませんが、周りの知人や、銀行や巷(ちまた)で見かける人々が、自分や家族・親戚の資産を運用することに、命懸けで向き合っているなと常々感じてきました。

 そもそも、「理財」という言葉ですが、これは中国語で、文字通り「財産を管理する」、つまり資産運用、ファイナンスという意味です。よく日本では、中国における「理財商品」に言及する際に、「それは投資信託のことだよ」とさっと流しますが、中国で現地の人々とつき合ってきた私から見れば、言葉上の意味は同じでも、その背後に潜む文化や生きざまは異なります。「理財商品」は、数ある金融商品の中の一つの選択肢というだけでなく、もっと重い側面があります。

 日本では、社会人になった若者が会社から給料をもらい、それを貯蓄し、ローンで住宅を購入。これも給料のみを原資に返済し、返済しているうちに定年退職し、年金生活に入る、といった「生きざま」が普遍的であるようです。

 一方、大多数の中国人は違います。中国でも、将来に不安を覚えるが故に貯蓄を重んじる文化は存在しますが、普通預金、定期預金を含め、その金利の高低に基づいて、一部を理財商品に回したり、株を買ったり、あるいは金融機関や知人からお金を借りて、投資の手段として不動産を購入したりと、リスクをヘッジしながら、マルチベースの資産運用をしているのが一般的です。これは資産運用に長けた人や、金融に一定の知識がある人に限りません。出身、階級、職種、性別、収入、社会的地位などにかかわらず、国民一人がそれぞれの資産運用に取り組んでいます。

 私から見て、言葉が正しいのか分かりませんが、中国の人々は総じて「ファイナンスリテラシー」が高いのです。一つの情報や考え方をうのみにするのではなく、疑ってかかり、自分の頭で考え、信頼できる他者に相談し、リスクをヘッジするという思考回路や行動原理が普遍的なのです。この姿には、制度の不公平性や政治リスクなどが存在し、いつ自らの資産が脅かされるか、消えてなくなるか分からない状況下で、自らが貯蓄してきた、あるいは何らかの形で調達した財をいかに守り増やすかという、中国人の生きざまが反映されていると言えるのです。

 一寸先は闇。自分の身は自分で守る。

 どのように言語化するかは別として、これが中国人にとっての常識であり、資産運用を含めた生きざまにも、それが如実に反映されているということです。

 ここからは、私がよく知る3人の中国人に登場していただき、彼ら・彼女らがどのような姿勢で資産運用に取り組んできたのかを、可能な限り詳細に描写します。なお、日本人から見て、「そのやり方は道徳的にどうなの? 法に触れていないの?」といった疑問が浮かんでくる場面もあるかもしれませんが、中国特有のグレーゾーンや国情もあります。ここでは実際の描写を優先することを先に断っておきます。

1:Qさん(37歳独身男性・ジャーナリスト・大学院卒・北京在住)の場合

 中国では誰でも知っている著名な国営メディアで、経済を担当する記者として働くQさんとは、知り合って7年になります。聡明、イケメン、英語が堪能で、女性からの人気も高く、交友範囲も広いQさんですが、当初からの悩みが、国営メディアゆえの固定給の低さでした。大学院卒業後に入社した当初は月給5,000元(約7万5,000円)、いまでも1万元ほどです。北京という物価高の都市で、年収200万円以下でそれなりの暮らしをするのはまず不可能だと言えます。

 国営メディアとはいえ、昔と違い住宅が支給されるわけでもなく、基本的な医療保険や年金以外に特別な保障があるわけでも、巨額の取材費が出るわけでもありません。衣食住、社交を含めて、すべて自分のお金で賄わないといけないのです。それでも彼は、5年前に200万元(約3,000万円)を出して、北京の郊外に住宅を購入しました。ローンではなく、キャッシュ一括払いです。30代前半の若者が、年収の15倍に相当する現金をボストンバッグに詰め込んで、一括で住宅を購入する光景を、皆さんは想像できるでしょうか。

 また、彼は昨年、それまで乗っていたある日本車を売り払い、約20万元(約300万円)する日本車を新車で購入。その際も、売却時に手にしたお金以外に、15万元のキャッシュを用意して購入しています。

 年収200万円に満たない彼が、いったいどのようにして住宅や自動車というお高い買い物をキャッシュ一括払いできるのでしょうか。

 Qさんの場合、毎月の給料から、生活に必要な金額以外のほぼすべてを、元共産党の地方幹部で、株の売買を得意とする実父に渡しています。そこで得た収益の一部を両親への仕送りとし、残りは自らの生活費や社交費に充てているのです。

 彼は、「父は原資が手に入って大好きな株取引に没頭できると喜んでいるし、そこで利益を上げれば上げるほど自らの取り分も増えるわけだから、モチベーションにもなる。私としても、親孝行と資産運用を同時進行でき、かつ手間も省けるから都合がいい」と心境を語ってくれました。

 私から見て、Qさんのように、自らが都市部で懸命に働いた給料の一部を、地元の信頼できる、資産運用に長けた家族や親せきに預け、親孝行・家族サービスとしつつ、自らが都市部で生活していくための資金調達につなげるスタイルはとても普遍的です。

 ちなみに、Qさんは5年前に購入した住宅を他者に貸し、その賃借料を社交費に充てる一方、自らは賃貸アパートに住んでいます。当然、5年前に比べて不動産は高騰しており、しかるべきタイミングに売却すれば、また収益を上げることが可能です。自らの職業、人脈、知恵などを駆使し、リスクヘッジや運用方法を何重にも張り巡らしつつ、「理財」に取り組んでいるのです。

2:Wさん(55歳既婚男性・政府官僚・大学卒・北京在住)の場合

 Wさんは共産党の高級幹部の子孫で、いわゆる「太子党」と呼ばれる人種。非常に聡明、有能で、リベラルなマインドを持つ、局長級の経済官僚です。大学卒業後、政府機関に入省した当初は、まだ公務員に住宅を支給するという慣例が残っていたらしく、私もお邪魔したことがありますが、彼と妻は今でも北京市中心部にある約150平方メートルの住宅に住んでいます。今は独り立ちしている息子さんの部屋も残しています。

 彼の資産運用の特徴は、全国各地にある魅力的な事業に、中長期的収益という見地から投資をするという手法です。その過程で、経済官僚幹部としての社会的地位を生かしつつ、情報収集をし、人脈や経験を駆使しながら、自らの資金を投入しているのです。ちなみに彼の月収は約1万5,000元(約23万円)で、すでに支給された住宅があるとはいえ、それなりの生活をする上で十分な資金とは言えません。

 私の知っている限り、彼は常時10件ほどのプロジェクトに投資をしています。株主になることもあります。そのうえで、定期的にリターンが入ってくるように回しています。「自らの先見の明や投資案件への判断力などが試されるし、不動産投資よりもよっぽど面白い」と以前言っていました。約3年前、北京の彼の自宅で、「平均すると年間どれくらいのリターンが手元に返ってくるのですか?」と聞いてみると、「年によってまちまちだが、平均すると300万元くらい」と言っていました。約4,500万円、年収の約16倍です。

 以前、彼の妻がある事業に失敗し、30万元(約450万円)の現金が必要になったとき、Wさんが私のもう一人の知人に「急なお願いですまないが、30万元貸してほしい」と手を合わせている現場に居合わせたことがありました。投資案件であれだけ稼いでいて、30万元なんて大した額ではないと疑問を感じましたが、後になって分かりました。Wさんは、リターンがくると、それを原資に即座に他の案件に投資をする習慣があり、故に、手元にキャッシュはほとんどない、とのことでした。

 これも中国では普遍的です。

 私は以前、中国での言論活動で「賭性(ドゥーシン)」という言葉で中国の国民性を表現したことがありますが、中国には思い切りや気前がよく、時にギャンブラーを彷彿(ほうふつ)させるような資金繰りに奔走している「民間投資家」が少なくありません。少しでも現金があれば、それを持つのではなく、増やすために投資先を探すのです。だから、手元にはキャッシュがほとんどなく、常時借金をしている状態なのです。それでも、そういう資産運用がエキサイティングで人生を楽しくし、しかも長期的には自ら、そして家族の資産が増えるという理にかなった手法を取っているのだといえます。

3:Xさん(32歳既婚女性・国際機関勤務・大学院卒・ニューヨーク在住)の場合

 Xさんは上海の有名大学を卒業したいわゆるエリートで、米国東海岸にある某有名大学院でも学びました。長身で美貌を備え、英語が堪能。農村部の貧しい家庭に育ちましたが、自らの努力で這(は)い上がってきました。中国を離れて7年。親戚はほぼ全員中国国内にいるようです。この期間、彼女は仕事で得た給料で衣食住にかかる経費を満たしつつ、余ったお金をすべて中国国内の「理財商品」の購入に充てています。

 現時点では住宅ほどの大きな買い物をする原資がないという判断もあるようですが、彼女は大学卒業後一貫して、銀行の定期預金の2~3倍の利回りで、リスクが比較的少なく、安定的に収益を上げられる理財商品を常時複数購入することを、資産運用の核に位置付けてきました。

 最近彼女と話をしましたが、理財商品に投資してきた過去の7年を振り返って、平均すると、米国における年収(約800万円)の4分の1の収益が毎年上がっているとのこと。それを固定給に足すと、ちょうど年収は1,000万円くらい。リスクもそれほど高くなく、手間もあまりかからない、ただ銀行に預金しておくよりも利回りが高く、安定的に資産を伸ばしていけるこの手法が「私の性格や現時点における財布事情に合っている」とXさんは言います。

 しかも彼女は理財商品で得た収益を使って、田舎で暮らす両親に、150平方メートルほどの新居をプレゼントしたそうです。支払いは現金一括。親孝行ですね。中国では、儒教の中にある「孝」という精神は、ただ美徳というだけでなく、一種の身元整理のような意味合いもあるというのが私の理解です。以前、メキシコの海岸部にあるカンクンを旅行した際に、空港まで送ってくれたタクシーの運転手が、「ハッピーワイフ、ハッピーライフ!」と叫んでいましたが、妻や家族を幸せにしてこそ、自らの人生もハッピーになる、という人生哲学です。

 中国人の生きざまにも、この哲学が血液のように流れているというのが私の観察です。親孝行はそれ自体に価値があるというだけでなく、利回りの高い、安定収益を確保できる先行投資であると、多くの中国人は(口には出しませんが)、考え、動いているように見受けられます。