※本記事は2012年8月17日に公開したものです。
運用手順と金融商品選択
はじめに考えた本稿のタイトルは「金融商品選択の一般理論」だった。しかし、ケインズでもない私が「一般理論」というのは、あまりに偉そうなので、遠慮して「一般論」とした。しかし、今回は、「全ての金融商品にあてはまる」議論という意味での「一般論」を提示する意気込みだ。
先ず、金融商品を評価・選択する前提となる、個人の正しい資産運用手順を確認しよう。
個人の資産運用は以下の手順で行う。
個人の“正しい”資産運用手順
- 家計の分析・把握
- 資産配分計画の作成
- 商品選択
- 売買金融機関の選択
- モニタリングとメンテナンス
先ず、自分の資産や負債、さらに今後の収入や支出などを分析して、どれだけリスクを取ることが出来るかを考える。リスクの限度は、「一年間に運用で損してもいい限度額」で把握するといい。
次に、上記のリスクの限度額の範囲内で、「現金」・「国内債券」・「外国債券」・「国内株式」・「外国株式」といった“アセット・クラス”(資産分類)にどれだけの割合・金額を配分するかを決定する。いわゆる「アセット・アロケーション」を行う。このプロセスを踏むのは、いきなり商品選択に向かうと、自分がどれだけリスクを取るのかが把握しにくくなるからだ。単一の運用商品で運用することが最適になることは考えにくいが、複数の金融商品で運用した場合、全体のリスクがどうなるかが極めて把握しにくくなるので、この手順で考えるのが現実的だ。
一つの商品で内外の株式や債券をミックスして運用する「バランス・ファンド」と呼ばれるカテゴリーの商品があるが、これは、中身が把握しにくく、リスク把握が難しくなるので、少なくとも初心者向けではない。また、個別のアセット・クラス毎に商品を選択して同様の配分を作るよりも手数料が割高になることが殆どだ。現実的なアドバイスとしては、「バランス・ファンドは運用の選択肢にしないと決めておけ」と申し上げていいと思う(この結論は、将来、手数料が破格に安いバランス・ファンドが登場するまで変える必要がない)。
個人向けの資産配分の簡便法を提示しよう。
一案として、「国内株50%+外国先進国株(ベンチマークはMSCI-KOKUSAI)25%+外国新興国株(同MSCI-EM)25%」をひとまとめに「リスク資産」と捉え、これを許容最大損失額の3倍までを上限にして、「期待リターンは金利プラス5%くらい」と考えてリスク資産への投資額を決め、残りを「(ほぼ)無リスク資産」として、「国内債券」、「現金(預金などの流動性の高い短期資金運用手段)」に配分するという方法をお勧めする。
この配分案には「外国債券」が入っていないが、「外国債券」は、(1)為替のヘッジができない場合に為替リスクが過大になること、(2)為替リスクがある割に期待リターンが大きくないこと(国内債券とほぼ同じと考えるべきだ)、更に、(3)個別の債券(外債)は信用リスクの判断が困難で(格付は信用できない)、(4)また投資信託のように中身が分散投資された商品は手数料を考えた場合に現実的に買える商品がないことから、個人投資家は現在除外して考えていい。
また、「外国債券」は、商品が個別の外債である場合もあるし、投資信託である場合もあるが、率直に言って、対面型の営業を行う金融機関に多額の手数料を稼がれてしまう危険なアセット・クラスでもある。近づかない方がいい。
資産配分計画が出来たら、各アセット・クラスに対応する商品を選択する。この場合、幅広い運用会社・金融機関からベストなものを選ぶことが肝心だ。
運用商品が決まったら、どの金融機関でこれらを購入し、将来の売却を行うかを決める。現在、リテールの金融商品に関して「一物一価の法則」は成立していない。全く同じ商品を買っても、金融機関によって手数料が異なることがあるので、注意して欲しい。
個人の資産運用の典型的な誤りは、売買窓口を、たとえば「退職金が振り込まれた銀行で」(多くの場合、これは最悪の選択だ!)といった具合に、先に決めてしまうことだ。選ぶことが出来る運用商品及び売買手数料に大きな制約が加わる。
最終的には、読者が自分で調べて納得して決めて欲しいが、扱う商品の範囲が十分に拡大したことと、売買手数料が安価(又はゼロ)であること、及び、金融マンのセールスに合うことなく商品選択できるので、ネット証券が好適な売買窓口であることが多いだろうと申し上げておく。