中国金融当局を時代遅れとしたジャック・マーの傲慢

「馬雲太飘了!」

 本件を受けて、私が中国本土と香港における金融機関(中国銀行、中国工商銀行、中国交通銀行、中国投資有限責任公司CIC、中金公司CICC、HSBC)で働く複数の知人と「アントがIPO延期を余儀なくされた原因」について見方をうかがってみると、全員が率先してこう回答してきました。

 この五文字におけるキーワードは二つ。一つは「馬雲」、アリババの創設者であるジャック・マー、もう一つは「飘」、傲慢(ごうまん)で、夜郎自大的になっているという類の意味。要するに、ジャック・マー個人の姿勢そのものに、当局に上場を阻まれた重大な原因が見出せると言っているのです。

 彼ら・彼女らがジャック・マーに「太飘了」という感想を抱かせた場面の一つが、IPO前夜、10月24日、上海市で開催された第2回外灘金融サミットにおける同氏のスピーチです。

 マー氏は中国における金融がまだまだ未熟であること、銀行の伝統的なビジネスがいかに古臭いか、当局の市場への監視監督がいかに問題かなどを大胆に主張しました。

「中国金融にシステミックリスクは存在しない、なぜならシステムがないからだ。」

「政策と文書は異なる。昨今、これをしてはいけない、あれをしてはいけないという文書が多すぎる。政策というのはメカニズム設計であり、発展を奨励すべきものだ。今日必要なのは政策の専門家であり、文書の専門家ではない。」

「多くの監督管理組織は、任務を遂行する過程で、自らの組織にはリスクがなくなる一方で、経済全体にリスクを生んでしまったのだ。経済全体が発展しなくなるというリスクである。」

 一方で、自らやアリババがいかにしてイノベーションを重視し、新しいことに挑戦してきたかを強調しつつ、次のように高らかに宣言しました。

「昨晩、私は上海でアントフィナンシャル株の売り出し価格を決定しました。これは人類史上最大規模の融資価格であり、過去の五年以来、ニューヨーク以外で初めて成し遂げた、とてつもなく規模の大きいIPOにおける価格設定である」

 言うまでもなく、「ニューヨーク」は、2014年アリババ社がニューヨーク証券取引所でIPO(調達額2.7兆円、1株68ドル)をしたときのことを指します。

 要するに、自分たちは世界と中国における金融市場にとっての救世主であり、人類の未来のために日々努力している自分たちのビジネスを邪魔する金融当局は時代遅れであり、自己革新しなければならないのはマーケットではなく、政府側であると、マー氏は言っているのです。