投資家のキモチ ケース3

先生:今度は、二人とも、大きな機関投資家の気持ちになってみて。運用資産1,000億円、もちろん、自分のお金じゃないし、上司とかにOKがもらえないと、運用できないシステムね。

しんた:ほ、本格的ですね。

ひな:ドキドキします!

先生:二人とも、今日は4月1日とするよ。4月から始まって9月に終わる期間で、その1,000億円を使って、5%の利益を出しなさい、っていう指示が出ました。

ひな:しんた君、1,000億円の5%って、いくら?
しんた:50億円。
ひな:ご、ごじゅうおく…。

先生:投資する資産は、さっきと同じ日経平均株価に連動するファンドにしようかな。そして、4月中に買わなきゃいけないとしようか。しんた君、まずはどうする?

しんた:さっきと同じ、いくつかに分割して買います。100億円ずつ10日間で、とか。
先生:そうね。それなら、上司も納得してくれそう。

ひな:下がったら一気に1,000億円買います! というのは?

しんた:それって、上司が納得しないよ。次の日に下がっちゃったら、「何で全部買っちゃったんだ!」って怒られそう。

ひな:なるほど。

しんた:その点、分散しておけば、「平均的に買えました」って言えそう。

先生:しんた君、明日から会社員できそう。じゃ、次ね。4月中に投資が終わり、9月1日になりました。まだ一度も5%の利益が出る水準にはなっていませんが、3%程度なら利益が出る水準です。

しんた:実践的ですね。実際にありそう!!

ひな:とってもドキドキする!!

先生:上司から指示がありました。9月中に売り切って、今期3%の利益を出しなさい、って。しんた君、どうする?

しんた:もちろん、早速売り始めます。
ひな:待っている間に下がり始めちゃったら、もうパニック!!

先生:ただし、1,000億円もあるから、一気に売って相場が崩れないようにしないといけないよ。

ひな:分散して売ればいいんじゃない? 買ったときみたいに。
先生:ひなちゃん、それだと、どんどん下がっちゃったら、3%の利益が出なくなるリスクが出てくる。

しんた:ってことは、「一気に相場が崩れない程度になるべく早く売る」ってことか。
先生:そうそう。それなら、上司も納得いくでしょ?

ひな:なるほどですね。
しんた:奥が深いなぁ。

先生:では、ここで、クイーズ!
しんた:!!先生、クイズですか?
ひな:まって、しんた君、そういえば、もともとわたしたち、クイズ研究部じゃなかったっけ?

しんた:あ、そうだった。
先生:今の最後の設定、しんた君が「実践的ですね!実際にありそう!!」って、言ってたけど、よーーーーく見直して、何か気づくことがないかな?

しんた:えー!

ひな:難しくないですか?
しんた:…。そもそも今日の議題は「売りが買いより難しい理由」だったはずだよね。

ひな:あ! しんた君、最初に二人で話していたときに、「買い上手より売り上手」「仕掛けはたやすく、手仕舞いは難し」って、言ってたよね?

しんた:そっか。さっきの「買いは平均的に買う」、「売りは一気に相場が崩れない程度になるべく早く売る」ってことは、それを表現しているんだ!
「買い」は「時間をかけて買う」、「売り」は「時間をかけずに売る」。だから、「買い」のチャンスは長くあるけど、「売り」のチャンスは少なくなりがちなんだ。

ひな:それを、多くの機関投資家がやったら、大変なことになる!

先生:でしょ。わたしが勝手に仮定した問題だから、実際のところは分からないけど。
しんた:しかし、うちの父さんより説得力があります!

先生:しんた君、もうひとつ、気がついてほしいことがあるんだけど。
ひな:ええっ! まだあるんですか?

しんた:分かった! 格言の「セルインメイ」では、4月と5月が高値だったけど、4月に決算期がスタートするから、「4月に買い」が出る。だから、株価は上がりやすい。そして、半期決算の出る9月に利益を確定するから株価は下がりやすい…。

 だから、個人投資家としては、その動きを利用して、4月と5月に高値圏になったら売っておく。9月になったら、買い戻す。
 だって、「売り」は「一気に相場が崩れない程度になるべく早く売る」んだから、無理に9月末まで待つ必要もない。これこそ、「セルインメイ」!

ひな:す、すごい!

先生:あと付け加えると「節分天井彼岸底(せつぶんてんじょう・ひがんぞこ)」。9月末を過ぎると今度は、「10月にスタートして、3月に終わる」期だから、もちろん、3月に売りが出る可能性が高くなる。

 あとは、「4月にスタートして、3月に終わる」のが「ほとんどの日本企業の決算年度」だから、「4月に買って、3月に売る」だけの投資家もいる可能性があるよね。ってことは、3月の売りが多い分だけ、「彼岸底」になりやすい。

ひな:すす、すごい!!

先生:一方で忘れそうだったけど、外国人は、「1月にスタートして、12月に終わる」のが「ほとんどの欧米企業の決算年度」だから、「1月に買って秋口の9月から11月に売ることが多い」。「節分天井」は、海外投資家の買いが一巡するのが2月の上旬になりやすい、っていうのと一致するのね。

ひな:すすす、すごい!!!

先生:相場は、どうなるかはだれも分からないけど、投資額が多い外国人投資家や機関投資家の動きを見ることは大事だと思う。

最後に

先生:…ということで、「売りが買いより難しい理由」は、こんなところでいいかしら?
二人:はい!ありがとうございました!!