治療薬は実現するか?
さまざまな見通しがあって、どうなるか予想するのは困難です。このレポートでは、とりあえず今分かっていることを取りまとめ、考える材料にしたいと思います。
治療薬には、大きく分けて2つあります。【1】既存の抗ウイルス薬を活用する方法と、【2】感染して回復した人の抗体を使う血清療法です。
【1】既存の抗ウイルス剤の活用
新型コロナはウイルスです。ウイルスは、「生物と無生物の間」(生物学者福岡伸一氏の言葉)と呼ばれるように、自ら呼吸し、自ら増殖するわけではありません。人間の細胞の中に入り込んで、増殖していきます。
したがって、細胞外に存在する生物である「細菌」とは、根本的に異なります。細菌の治癒に有効な抗生物質は、ウイルス性疾患(インフルエンザなど)には、効きません。ウイルスの増殖を抑える「抗ウイルス剤」を使うことが必要です。
新型コロナの治療に有効な成分を新たに見つけ、安全性を確認した上で薬剤として開発するには、何年も、あるいは何十年もかかってしまいます。急ぎ、治療薬を見つけるには、既に使われている抗ウイルス剤から、新型コロナ治癒に有効なものを探すしかありません。
幸い、既存の抗ウイルス薬で、新型コロナに有効と考えられるものは多数あります。中でも有力候補と考えられているのが、富士フィルムHD(4901)のグループ会社、富士フィルム富山化学が開発した抗ウイルス薬「アビガン」や、米ギリアド・サイエンシズの「レムデジビル」です。
ただし、「アビガン」「レムデジビル」など、既存の抗ウイルス剤には、1つ問題があります。軽症者に投与すると回復が早まるが、重症になってから投与しても効果が小さいことです。
それならば軽症者にどんどん投与すれば良いと思われますが、両剤とも、副作用が大きいため、それができません。副作用の大きさを考えると、軽症者でも、投与すべき対象を絞り込む必要があります。
【2】血清療法、ヒト血液から治療薬をつくる方法
新型コロナに感染し、回復したヒトの血清には、新型コロナに対抗する「抗体」が生成されています。この血清を、重症者に投与すると、治療に効果を発揮することがわかっています。回復したヒトの血清を使う治療が、「血清療法」です。
ただし、このやり方では、大量の薬剤を生成することは、できません。今のような世界的なパンデミック(大流行)となっている時には、とても間に合いません。
回復者の血漿を利用して、新型コロナの治療薬を開発する動きもあります。武田薬品工業(4502)と、米ベーリングが共同開発を目指しています。武田薬品は、買収したアイルランドのシャイヤー社が持つ、血液製剤の技術を用います。
一般に、感染症は、一度かかると、二度はかかりません。感染して回復すると、体内に免疫ができるからです。新型コロナでも、一度かかって回復したヒトには、抗体ができているので、二度はかからないと考えられています(厳密に証明されたわけではありませんが、ほぼ間違いないと考えられます)。
新型コロナでは、感染者の8割は軽症のまま回復すると考えられています。その回復者の血漿を薬剤開発に生かします。
医学が未発達だった時代(細菌とウイルスの違いも分かっていなかった時代)、感染症が大流行すると、終息するまでに長い年月がかかりました。回復して免疫を持つ人が、人口の6~7割を占めるまでは、感染に歯止めがかかりませんでした。
たとえば、1918年(第一次世界大戦末期)、世界的に大流行したスペイン風邪(当時は風邪と考えられていた)がそうです。世界中で、何十万人という死者を出しましたが、生き残った人々が免疫を持つことで、やっと終息に向かいました。