日経平均は「1万9,500円の壁」でいったん打ち返される

 4月13日の日経平均は、前週末比455円安の1万9,043円でした。私が考えている当面のレンジ(1万6,500~1万9,500円)の上限で打ち返された形です。新型コロナの感染拡大に歯止めがかかっていないので、レンジを上放れるには時期尚早と考えています。

日経平均日足:2020年1月4日~4月13日

 当面は、1万6,500円から1万9,500円の範囲で、保ち合い(もちあい)になると考えています。それでは、日経平均は最終的にこのレンジを上放れるでしょうか? あるいは下放れるでしょうか? 私は、上放れる可能性が高いと考えています。いずれ新型コロナの治療薬・ワクチンが開発され、経済は正常化していくと予想しているからです。

 ただし、レンジを下放れるシナリオも、考えることはできます。治療薬・ワクチンの開発が遅れ、世界中で感染拡大に歯止めがかからず、上場企業の破綻が増え、金融危機が起こるならば、日経平均はレンジを下放れしていくと、考えられます。

 世界各国が一斉に治療薬・ワクチンの開発に着手しているので、私は、底割れシナリオは回避できると考えています。世界各国が協調して「何でもあり」の巨額経済対策(財政・金融政策)を打ち出して金融危機を防いでいる間に、治療薬・ワクチンを完成させていく道筋が見えてくると、予想しています。

 楽観シナリオと悲観シナリオを分ける一番重要なポイントは、新型コロナ克服の時期です。早期に克服すれば、世界経済は急速に正常化します。克服が遅れれば、金融危機に陥る可能性が高まります。いつ、治療薬・ワクチンの開発に成功するかにかかっています。

治療薬は実現するか?

 さまざまな見通しがあって、どうなるか予想するのは困難です。このレポートでは、とりあえず今分かっていることを取りまとめ、考える材料にしたいと思います。

 治療薬には、大きく分けて2つあります。【1】既存の抗ウイルス薬を活用する方法と、【2】感染して回復した人の抗体を使う血清療法です。

【1】既存の抗ウイルス剤の活用

 新型コロナはウイルスです。ウイルスは、「生物と無生物の間」(生物学者福岡伸一氏の言葉)と呼ばれるように、自ら呼吸し、自ら増殖するわけではありません。人間の細胞の中に入り込んで、増殖していきます。

 したがって、細胞外に存在する生物である「細菌」とは、根本的に異なります。細菌の治癒に有効な抗生物質は、ウイルス性疾患(インフルエンザなど)には、効きません。ウイルスの増殖を抑える「抗ウイルス剤」を使うことが必要です。

 新型コロナの治療に有効な成分を新たに見つけ、安全性を確認した上で薬剤として開発するには、何年も、あるいは何十年もかかってしまいます。急ぎ、治療薬を見つけるには、既に使われている抗ウイルス剤から、新型コロナ治癒に有効なものを探すしかありません。

 幸い、既存の抗ウイルス薬で、新型コロナに有効と考えられるものは多数あります。中でも有力候補と考えられているのが、富士フィルムHD(4901)のグループ会社、富士フィルム富山化学が開発した抗ウイルス薬「アビガン」や、米ギリアド・サイエンシズの「レムデジビル」です。
 ただし、「アビガン」「レムデジビル」など、既存の抗ウイルス剤には、1つ問題があります。軽症者に投与すると回復が早まるが、重症になってから投与しても効果が小さいことです。

 それならば軽症者にどんどん投与すれば良いと思われますが、両剤とも、副作用が大きいため、それができません。副作用の大きさを考えると、軽症者でも、投与すべき対象を絞り込む必要があります。

【2】血清療法、ヒト血液から治療薬をつくる方法

 新型コロナに感染し、回復したヒトの血清には、新型コロナに対抗する「抗体」が生成されています。この血清を、重症者に投与すると、治療に効果を発揮することがわかっています。回復したヒトの血清を使う治療が、「血清療法」です。

 ただし、このやり方では、大量の薬剤を生成することは、できません。今のような世界的なパンデミック(大流行)となっている時には、とても間に合いません。

 回復者の血漿を利用して、新型コロナの治療薬を開発する動きもあります。武田薬品工業(4502)と、米ベーリングが共同開発を目指しています。武田薬品は、買収したアイルランドのシャイヤー社が持つ、血液製剤の技術を用います。

 一般に、感染症は、一度かかると、二度はかかりません。感染して回復すると、体内に免疫ができるからです。新型コロナでも、一度かかって回復したヒトには、抗体ができているので、二度はかからないと考えられています(厳密に証明されたわけではありませんが、ほぼ間違いないと考えられます)。

 新型コロナでは、感染者の8割は軽症のまま回復すると考えられています。その回復者の血漿を薬剤開発に生かします。

 医学が未発達だった時代(細菌とウイルスの違いも分かっていなかった時代)、感染症が大流行すると、終息するまでに長い年月がかかりました。回復して免疫を持つ人が、人口の6~7割を占めるまでは、感染に歯止めがかかりませんでした。

 たとえば、1918年(第一次世界大戦末期)、世界的に大流行したスペイン風邪(当時は風邪と考えられていた)がそうです。世界中で、何十万人という死者を出しましたが、生き残った人々が免疫を持つことで、やっと終息に向かいました。

予防薬(ワクチン)は、実現するか?

 新型コロナは、感染力が強いので、感染者がいるかもしれない地域に出かけることが難しくなります。ただし、予防に有効なワクチンを投与すれば、感染を気にしないで良くなります。たくさんの人に、新型コロナのワクチンを提供できれば、それで社会的な感染の広がりを押さえられ、経済が正常化します。そういうワクチンの開発は可能でしょうか?

 今、世界中で、新型コロナのワクチン開発が一斉に動き出しています。半年~1年以内に、利用可能なワクチンが出てくると考えられます。

 ワクチンの開発には通常、長い時間と巨額の資金がかかります。上市(市場に出し、市販すること)しても、採算がとれるかどうか、分かりません。したがって、民間の製薬会社は、ワクチン開発に二の足を踏みます。早くから新型コロナが世界的に流行するリスクがあると警鐘を鳴らす専門家がいたのに、ワクチンの開発が進んでいなかったのは、そうした採算面の懸念があったからです。

 今、新型コロナのワクチン開発に、世界各国のバックアップが出ているので、急速に開発が進展する見込みです。通常、何年にも及ぶ臨床試験も、特例として短期間で済ませる可能性が出ています。

 ところで、ワクチンには、いろいろな種類があります。代表的なのは、【1】生ワクチンと、【2】DNAワクチンです。早期に実現しそうなのは、DNAワクチンの方です。

【1】生ワクチン

 弱毒化したウイルス(ワクチン)を投与し、それを克服させることで、体内に免疫を作らせるのが、生ワクチンです。新型コロナでも生ワクチンの開発が進んでいます。

 ただし、1つ問題があります。安全性が100%担保されているわけでないことです。つまり生ワクチンを投与した人の中の、ごく限られた割合の人に、軽くその病気の症状があらわれることがあります。

 安全性を高めるために、不活性化したウイルスを使ったワクチンもあります。不活性ワクチンならば、安全性は高まりますが、それでも100%安全とは言えません。なお、不活性ワクチンでは、1回の接種では不十分で、免疫を持つために複数回の接種が必要になることがあります。

【2】    DNAワクチン

 ウイルスそのものを使わず、ウイルスのDNA情報だけ使って生成するのが、DNAワクチンです。ウイルスそのものを使わないので、安全性はきわめて高く、生産にかかるコストも低く抑えられます。

 秋ごろまでには、実用化が進むと考えられています。まず、感染のリスクの高い仕事についている人(医療関係者)から投与をはじめ、次いで、感染すると重篤化するリスクを抱える人(高齢者・既往症のある人)から優先して投与する計画が進められています。

 安全面で優れていますが、1つ課題があります。新型コロナに絶対感染しなくなるという保証はないことです。感染しにくくなり、仮に感染しても重篤化しにくくなることはわかっていますが、「一度感染して回復したヒト」が持つ免疫と同等の効果が得られるわけではないと考えられています。