7.緊急事態宣言や首都封鎖は、事態を悪化させるだけと思われる

 前述したように、中国経済はこれから回復に向かうと思われます。夏以降はアメリカ経済も回復に向かう可能性があります。

 中国とアメリカ、この2国の景気回復の恩恵を日本経済は受け取る立場にあります。

 ただし、日本で緊急事態宣言や首都封鎖が実現すれば、日本経済は混乱し、景気回復への道筋が当面断たれる可能性が大きくなると思われます。要するに、中国とアメリカの景気回復の恩恵を受けるには、日本にある世界最高レベルの電子部品工場、半導体素材工場、そして半導体製造装置工場とそれらの下請け工場が動いて、それらの製品を出荷するときの物流が円滑である必要があります。緊急事態宣言や首都封鎖が実施されると、工場の稼働や物流が円滑に進まなくなる恐れがあります。

 緊急事態宣言と首都封鎖は、新型コロナウイルス感染症との戦いを困難にする可能性もあります。現在各地で、新型コロナウイルス感染症の拡大による経営不振を理由とした非正規雇用の解雇が始まっています。緊急事態や首都封鎖が宣言されると、それを受けて将来への展望を失った企業経営者が大量の首切りを行いかねません。

 失業者が多くなると、その人たちの中で自覚症状がある人が出たときに、全てとは言いませんが、病院に行くことよりも求職活動やアルバイトを優先する人たちが出てくるかもしれません。その場合、その人たちを通じて2次感染、3次感染がおこる可能性があります。

 健康管理の観点から考えても、有職者の場合は、会社単位での健康管理が可能ですが、数多くの失業者が発生した場合はその人たちを行政が捕捉することが極めて難しくなります。今は組織的な健康管理の枠組みから外れた人たちをできるだけ出さないようにすべきなのです。

 また、苦境に陥った地方自治体を救うには、中央政府と日本経済が動いていることが重要です。全国に先駆けて苦境に陥った北海道は、ほぼ終息の目途が立ってきました。北海道は希望者のほぼ全員にPCR検査を実施し、陽性反応が出た人達を入院させ治療しました。感染者の70%以上がすでに退院しています。知事の対応が早く、かつ人口に対して大量のPCR検査を実施したことが早期終息の要因と思われますが、その反面、道内経済はほぼ停止です。それを支えたのは中央政府であり日本経済全体です。

 足元では福岡県が苦境に陥りつつあるもようですが、このような自治体が出た時に日本経済全体が停止してしまったら、誰が支えるのでしょうか。

 表4は今の日本の発生状況を見たものですが、新型コロナウイルス感染症の感染者数2,381人、死者60人(いずれも4月1日)では緊急事態宣言も首都封鎖も必要な水準ではないと思われます。

 なお、表6は3月24日に東京オリンピックの延期が発表されて以降の東京都の感染者数(陽性者数)の動きです。陽性者の前日比増加数の中で、院内感染と市中感染を分けて表示しています。院内感染は原因が特定でき、感染者全員を治療することで院内感染のもとを断つことができますが、市中感染は拡大したときが厄介です。当面は、市中感染の増加が更に拡大するのか、あるいは、増加人数が頭打ちになるときが早期にくるのかが焦点と思われます。

 また、表7は厚生労働省の資料からとった、東京都など主要自治体のPCR検査実施人数と陽性者数の推移を見たものです。様々な見方があると思いますが、東京都での陽性者数急増の大きな要因は、これまでの検査不足によると思われます。この1週間以上の間、検査が増えているため、市中にいる陽性者が表に出てきた可能性があります。

表4 新型コロナウイルス感染症の発生状況

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出所:ヤフーより楽天証券作成。元出所は厚生労働省、WHO等。
注:4月2日時点で厚生労働省が発表した4月1日の数値。

表5 新型コロナウイルス感染症の都道府県別発生状況

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出所:厚生労働省より楽天証券作成。
注1:日付は各都道府県が確認した日付。厚生労働省日報へは翌日版の記載となる。
注2:無症状病原体保有者を除く。

表6 東京都:新型コロナウイルス感染者の推移

単位:人
出所:厚生労働省、東京都、各種報道より楽天証券作成。
注1:PCR検査実施人数は数日分をまとめて厚生労働省に報告するようなので、毎日増えるわけではない。
注2:院内感染は3月24日以前に2件ある。

表7 主要自治体のPCR検査実施人数と新型コロナウイルス陽性者数

出所:厚生労働省より楽天証券作成

8.関連銘柄

 日本の半導体製造装置メーカ―への投資を考えるときに重要なのは、まず、4月以降の5Gスマホ、パソコン、データセンター用サーバーの需要の動きです。この中で、パソコンとデータセンター用サーバーは構造が比較的簡単なので、需要にミートする数量の生産が可能と思われます。一方、5Gスマホは、数多くの半導体、電子部品等から成り立っているため、サプライチェーンが回復しているかどうかが焦点になります。

 もう一方で重要なのは、日本経済の動きです。主要半導体製造装置メーカーは工場を日本に置き、部材も日本メーカーから購入している場合が多いため、日本経済が苦境の中でも円滑に動きていることが重要です。

 このような見方から、中長期で、東京エレクトロン、アドバンテスト、レーザーテック、ディスコには引き続き投資妙味があると考えています。

 今のところ2020年3月期~2022年3月期の各社の業績予想と目標株価(今後6~12カ月間)は変更しません(各社の業績予想は、2020年3月6日付け楽天証券投資WEEKLY を参照してください)。目標株価が今の株価に比べてかなり高くなっていますが、2020年3月期決算の発表後、再検討したいと思います。

(参考)今後6~12カ月間の各社の目標株価
東京エレクトロン:3万4,000円
アドバンテスト:9,000円
レーザーテック:8,500円
ディスコ:3万6,000円

本レポートに掲載した銘柄:東京エレクトロン(8035)アドバンテスト(6857)レーザーテック(6920)ディスコ(6146)