「パンデミック・リセッション」の兆しはどこに?

 特に、堅調だった米国株式はなぜ急落に転じたのでしょうか。図表2は、2月21日に民間調査会社(Markit)が発表した2月の日米の製造業及びサービス業(非製造業)のPMI指数です。この指数は企業の景況感指数で、「50」を下回ると企業活動の縮小を示します。

 2月の同指数は日米の製造業・サービス業すべての急悪化を示唆。米国市場にとり「サプライズ」だったのが、新型ウイルスの影響が製造業だけでなく小売り、空運、観光業を含むサービス業(非製造業)の景況感を冷え込ませたことです。米GDP(国内総生産)の約7割を占める個人消費が底堅い景況感と株高を支えてきた「反動的ショック」とも言えます。

 一方、日本の製造業とサービス業の景気停滞基調は鮮明で、3月に新型コロナの感染が収束に向かわないと、リセッション(景気後退=2四半期連続のマイナス成長)入りが現実化しそうです。

図表2:日米の製造業・サービス業の景況感が急悪化

出所:Markit、Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2018/1~2020/2)

 実際、新型コロナの影響で2020年の世界の成長率予想は下方修正され始めています。SARS(重症急性呼吸器症候群)が流行し株価が下落した2003年当時と比較すると、中国が世界のGDPに占める比率が当時で約4%であったのに対し、現在の中国のGDP比率は世界の約17%に拡大しています。

 中国景気に下押し圧力がかかると、SARSの感染拡大時より世界経済に与える影響が格段に大きくなります。日本、韓国などアジア諸国は地域全体のサプライチェーン(部材の供給網)、中国の消費者向け輸出、中国からのインバウンド(中国人観光客)のモノ・コト消費と深く絡み合っています。欧州でもドイツを中心に中国の景気鈍化から受ける打撃は大きいとみられます。オーストラリア、ブラジル、南アフリカなどの資源輸出国も、金属や農産物に対する中国からの需要鈍化で景気減速に直面すると考えられます。

 図表3は、米国債券市場のイールドカーブ(利回り曲線)を、直近(2月26日)、昨年末時点、1年前時点の水準と比較したものです。リスク回避の債券買いが続いた結果、10年債利回り(1.34%)も30年債利回り(1.82%)も過去最低水準に低下しました。イールドカーブは、FF金利(現行の誘導目標上限:1.75%)と比較すると「逆イールド」が示現しつつあります。

 金融政策の先行きに敏感とされる2年債利回りは約1.16%に低下し、金融市場が「FRBによる追加利下げが複数回実施される」ことを織り込む「利下げ催促相場に入った」とも言えます。大統領再選を目指すトランプ大統領は、足元の景況感悪化と株価急落で「FRBは早く利下げするべきだ!」とパウエル議長を責め立てる可能性も高まります。

図表3:債券市場と大統領はFRBに「追加利下げ」を催促か

出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2020/2/26)