※本記事は2018年8月22日に公開したものです。

「アンチ株主優待論」を再度配信した理由

 株主優待の記事は、トウシルでとてもよく読まれる人気の記事で、定期的に配信しています。ただ、「株主優待が絶対的な正義ではない」ということを改めて、読者の方に知っていただきたいと思い、楽天証券経済研究所・山崎の記事を再配信することにしました。

 株主優待の「モノがもらえる」というオマケは、特に初心者の投資家にはキャッチーです。銘柄が選べない、という悩みをお持ちの方の「とっかかり」にもなりやすいのだと思います。ただ、やはり株は株であって、株価の上昇・下落と向き合わずして、成果は得られません。また、「株主優待を望まない」株主が存在することも知っていただきたいと思います。

 この「アンチ株主優待」を読んで、株主優待に対して、新しい視点を持っていただければうれしいです。

(トウシル編集長・武田成央)

人気の株主優待

 株主優待は、個人投資家の間で人気のあるテーマだ。以前からそう感じているし、優待人気はますます高まっているように見受ける。「トウシル」でも株主優待を扱う記事はよく読まれている(個人的には、将棋ファンなので、桐谷広人さんが登場する記事を見るとうれしい)。

 しかし、今回は、多くの優待好きの投資家を敵に回すかもしれないが、「アンチ株主優待」の側に立って論じてみることにする。

 株式投資のいいところは、気に入らない銘柄は買わなくてもいいし、あるいは会社の業績や方針がダメだと思っても、「そのことを計算に入れた上で」株価が魅力的なら投資すればいいという自由さだ。従って、株主優待について、「いい」とか「ダメ」とか、一方的な結論を出す必要はないのだが、優待に関連する得失について考えてみたい。

マーケティング手段としての優待

 株主優待の典型的なものは、メーカーが自社製品と交換できる優待券を配ったり、飲食業で食事券を配ったり、遊戯施設を営む会社が入場券を配ったりするような、会社が扱っている商品・サービスの提供だ。

 仮に自社の商品を優待に使うとして、「株主に商品と交換可能な優待券を配布するコスト」と「同額の現金配当を行うコスト」とが同じだとすると、会社が商品券を配布する方がいいと判断できる場合は、自社商品の配布が、商品に対する追加的な需要を喚起する呼び水的な役割を果たすという見込みがある場合だろう。

 特に、個人の株主は会社のファンである可能性が大きいから、自社商品の配布がマーケティング上、プラスの効果を発揮する場合はあるかもしれない。例えば、食品を食べてみて気に入って、追加で購入するようなケース、あるいは、遊園地の入場券を優待で1枚手に入れたことで、連れて行きたい家族や友人の分まで入場券を追加購入するような場合だ。

 こうした効果が顕著にあることが明確なら、優待品を欲しない株主も株主優待に賛成できる場合があるように思われる。

 もっとも、例えば遊園地の場合、年間に使いたい回数が決まっている顧客が、優待券目当てで株式を持って入場券を手に入れるなら、遊園地の売り上げに対してはマイナスの効果が発生する場合もあるだろう。

 なお、株主優待が、業績と株価に対してどう働くのかの測定は、簡単ではない。優待導入の前後の株価比較だけでは、優待が長期的に及ぼす影響を捉えることができないからだ。