最大のリスクシナリオは「民主党の左派候補当選」?

 米大統領選挙を巡るリスクシナリオとしては、(1)民主党の中道派候補(バイデン氏、ブーテジェッジ氏、ブルームバーグ氏など)がトランプ大統領(共和党)に勝利する、(2)民主党の左派候補(ウォーレン氏、サンダース氏など)が当選する、(3)トランプ大統領が弾劾発議や長期にわたる税務申告拒否問題を起因に任期中に辞任に追い込まれるケースが挙げられます。概して、(1)のケースでは株価の下落は短期的で米国株は底堅い動きに戻りそうです。

 一方で、(現時点で可能性は低いとはいえ)(2)や(3)の動きが顕在化すれば、米国株やドル/円に下押し圧力が高まりそうです。この場合は日本株の下落要因となります。なお、トランプ大統領は再選された後でも、中国に対する強硬姿勢を強める可能性があります。むしろ、自身の支持率を上げるため、大統領選挙を前にして中国に対し一段と厳しい姿勢をとる可能性もあります。2020年は、こうしたワシントン情勢(政治・外交情勢)が市場の調整要因となりやすいことに要注意です。

 米国経済は、失業率が約50年振り低水準(3.7%)で、株価も高値圏で推移しているため、大統領選は現職(トランプ大統領)に有利とされています。来年はトランプ大統領が支持率を底上げするため、中間層向け減税やインフラ整備拡大策など財政出動に出る可能性もあります。

 民間調査会社(PredictIt)による予想確率では、共和党候補(=現時点ではトランプ大統領)の当選確率が持ち直し、民主党候補の当選確率は低下しています(図表2)。

<図表2>共和党候補当選の予想確率が盛り返した

出所:PredictItのデータをもとに楽天証券経済研究所作成(2019年5月~2019年12月18日)

<図表3>民主党の公認候補予想確率は大混戦

出所:PredictItのデータをもとに楽天証券経済研究所作成(2019年5月~2019年12月18日)

 民主党の指名予想確率が大混戦となっていることもトランプ大統領に有利とみられています(図表3)。民主党の候補指名レースでは、中道派のバイデン元副大統領がリードを盛り返しています。10月時点の機関投資家調査(バロンズ紙)によると、ファンドマネジャーが選好する(株式市場にプラスの)ケースは、(1)トランプ大統領の再選、(2)民主党バイデン元副大統領が当選、(3)民主党ブーテジェッジ氏が当選の順番でした。

 バイデン氏が当選すれば、オバマ政権の副大統領であったこともあり、対中姿勢が若干緩和に向かう可能性も指摘されています。なお、選挙戦が本格化すると、オバマ前大統領の支援が期待されており、バイデン氏が「スイングステート」と呼ばれる接戦州で4年前の選挙で失った有色人種票を取り返すとの予想もあります。バイデン氏の政策は中道寄りで、当選しても市場の混乱は一時的との見方が有力です。

 最大のリスクは、政策公約が左派的で「反・大富豪、反・大企業、反・ウォール街(株式市場)」と呼ばれるウォーレン氏が優勢となる場合です。ウォーレン候補の支持率や民主党公認指名確率は一時より下落しました(図表3)。このことも秋以降の株高要因と言えます。

 新年の焦点は、2月3日に予定されているアイオワ州での民主党・党員集会、2月13日のニューハンプシャー州での民主党・予備選、「スーパー・チューズデー」と呼ばれる3月3日のカリフォルニア州などでの民主党・代議員選挙での結果です。その後の焦点としては、勢いを取り戻したサンダース氏とウォーレン氏がコンビ(サンダース大統領候補&ウォーレン副大統領候補)を結成し、民主党内での勢力を取り戻すなら市場に「黄色信号」を灯す可能性があります。

 サンダース候補は世代間格差に不満を抱える若者層の支持が強く、ウォーレン氏は女性の支持層が強いとされます。大統領でも副大統領でも女性が就任すると「米国史上初」となり、総人口の半分を占める女性の支持を押し上げる可能性はあります。なお、サンダース氏(心臓疾患で一時選挙戦を停止した)が下りる事態となれば、同じ左派のウォーレン氏に支持が集結するとの見方もあります。

 一方、若手のブーテジェッジ氏(37才)を副大統領候補に据え、バイデン氏とブルームバーグ氏が合流。「トランプに勝てる中道勢力」を結集させるとの見方もあります。このように、選挙動向やその行方は2016年のケースと同様、「終わってみなければわからない」状況です。それだけに、2020年を通じた「不確実性」として警戒されるリスク要因となりそうです。