ウォーレン・リスクで「前門の虎、後門の狼」となるか

 民主党がトランプ大統領に対する弾劾を下院で発議しても、その決議には共和党が過半を占める上院議会で3分の2以上の賛成が必要で、「弾劾・罷免は不可能」と言われています。実際、米国の政治史において、下院(野党)で弾劾発議を受けた大統領は3人いますが、上院で弾劾(罷免)決議をされた大統領はいません(ニクソン大統領は上院での決議を前に自ら辞任)。

 民主党としては、弾劾審議を進める過程で、現職大統領にダメージを与え「再選」を阻もうとする意図がありそうです。一方、ウクライナゲートの究明が進むなか、民主党のバイデン候補(元副大統領)も傷を負うことになります。

 こうしたなか、民主党では「トランプに勝てそうな候補者」としてウォーレン上院議員が浮上しており、「指名確率(予想)」は約5割まで上昇しています(図表2)。ウォーレン候補が、来年春に行われる民主党予備選で優勢を維持するなら、米国市場の不確実性が増すこととなり注意が必要です。

図表2:ウォーレン候補の民主党指名確率(予想)が上げ潮に

(出所)PredictIt (Prediction Market)より楽天証券経済研究所作成(2019/5/1~2019/9/30)

 トランプ大統領は、今回の弾劾調査を「クーデター」と呼び、民主党下院議会を非難していますが、ポンペオ国務長官をはじめ複数の政府高官が下院での証言を求められています。こうした状況で、市場は「ウォーレン新大統領誕生」を警戒する動きも出始めています。「米国史上初の女性大統領」が株式市場に優しい(フレンドリー)大統領とは限らないからです。

 ウォーレン候補の公約(政策提言)には、「反・大企業」や「反・ウォール街(株式市場)」と呼ばれる政策が多いことで知られています。例えば、(1)富裕層資産課税(資産5000万ドル以上に2%課税)、(2)教育・雇用の機会均等と格差是正(大きな政府)、(3)国民皆保険制度の再整備とヘルスケアコスト削減(製薬会社の売上減少)、(4)独占を制限するためのGAFAの企業分割(米大手ハイテク株に圧力)などが挙げられます。

「プログレッシブ・リベラル」(進歩的社会民主主義)と呼ばれるウォーレン候補の主張が、大統領本選に向け必要とされる中道票の取り込みに成功するか否かは現時点では不明です。

「前門の虎、後門の狼」との格言に倣えば、「トランプ大統領」でも「ウォーレン大統領」のどちらでも(市場が嫌気しやすい)不確実性があることを忘れないようにしたいと思います。