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 パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、10年半ぶりの利下げを「サイクル半ばの調整」と述べ、本格的な利下げ局面入りを否定しました。しかし、8月23日の講演では、米中対立が一段と激化したことで、世界景気のさらなる減速懸念に触れ、追加緩和に前向きな姿勢を示しました。米国の金融緩和は、『予防的』な利下げにとどまらない可能性が出てきました。

 

【ポイント1】7月FOMCでは『予防的』な利下げを示唆

 FRBが8月21日公表した7月のFOMCの議事要旨によると、同会合では10年半ぶりの利下げを決め、政策金利を0.25%引き下げましたが、利下げをめぐり意見が割れていたことが明らかになりました。FOMC後の記者会見で、パウエルFRB議長は10年半ぶりの利下げを「サイクル半ばの調整」と述べ、本格的な利下げ局面に突入するとの見方は否定し、市場の過度な期待をけん制しました。このため7月の利下げは、米景気が減速した場合に備える、『予防的』な利下げとの解釈が一般的でした。

 

【ポイント2】ジャクソンホールで修正

 しかし、8月1日にトランプ大統領が中国製品に追加関税を課す「第4弾」を発動すると表明したことで米景気の先行き不透明感が一段と強まり、FRBの姿勢も変わった模様です。

 パウエル議長は、8月23日に国際シンポジウム(ジャクソンホール会議)で講演を行い、7月のFOMC以降の米経済を取り巻く環境の変化について、世界経済の成長鈍化と貿易政策の不確実性、インフレ圧力の鈍さが見通しの重荷になっているとし、「成長持続へ適切な行動をとる」と述べ、追加利下げに前向きな姿勢を示しました。

 講演では「サイクル半ばの調整」の言及を避け、市場の持続的な利下げへの期待をつなぎました。

 

【今後の展開】本格的な利下げ局面の可能性も

 同日の8月23日に中国が対米報復関税を発表すると、米政権は第1~3弾の対中追加関税の税率を25%から30%へ、第4弾の税率を10%から15%へ引き上げると発表しました。米中対立がさらに激化して報復合戦の様相を呈しており、9月1日からの第4弾の追加関税発動はほぼ避けられない情勢です。

 トランプ大統領が連日のようにFRBに利下げを要求するなか、長短金利が逆転する「逆イールド」が示現するなど、米国債券市場は大幅な利下げを織り込んでいます。FRBの金融緩和は『予防的』な利下げにとどまらず、本格的な利下げ局面入りの可能性が出てきました。