為替DI:貿易戦争拡大を懸念、「円高見通し」増える
楽天証券FXディーリング部 荒地 潤
楽天DIとは、ドル円、ユーロ円、豪ドル円それぞれの、今後1ヵ月の相場見通しを指数化したものです。DIがプラスの時は「円の先安」見通し、マイナスの時は「円の先高」見通しを意味します。プラス幅(マイナス幅)が大きいほど、円安(円高)見通しが強まっていることを示しています。[図-1]
「6月のドル/円は円安、円高のどちらへ動くと思いますか?」という質問に対して、5月末の水準(109.15円)よりも「円高」になるという予想が最も多く、全体の約44%を占めました。「円安」予想は約21%。残りの約35%は「動かない(わからない)」という回答でした。 [図-2]
円安見通しから円高見通しを引いたDIは▲23.31で、2カ月ぶりにマイナス(=円高見通し優勢)に転換。
今回のアンケート締切後にドル/円はさらに円高に進んでいます。投資家の円高見通しはさらに強まっていると考えます。
5月のドル/円は3日につけた111.69円が高値で、その後は緩やかに円高に推移しました。ところが月末31日になって急に勢いが強まると4カ月半ぶりの安値となる108円台へ急落。6月に入っても下落は続き107円台で取引されています。
円高の引き金は、米中貿易摩擦のエスカレートです。トランプ大統領がツイッターで2,000億ドル分の中国製品の関税を25%に引き上げを発表したのは5月5日。ファーウェイ製品使用禁止の大統領令に署名したのが15日。さらに5月31日には突然メキシコに対する関税引き上げを発表しました。
楽天DIでは3月に米中貿易摩擦の特集を組んだのですが、その時のアンケートでは、回答者の9割以上が、米中貿易協議は「合意できない」あるいは「合意できても対立構造は続く」と予想していました。残念ながらその通りの結果となったわけです。
それでもまだマーケットは楽観的な考えを捨てきれず、たとえ合意できなくても、米国経済は大丈夫という自信がありました。貿易摩擦が深刻化していくにもかかわらず5月のドル/円がそれほど下がらなかったのは、それが理由だったのでしょう。
ところが、トランプ大統領がメキシコに対して行ったように、すべての問題を制裁関税で解決しようとする強引な戦略を見て雰囲気が変わってきました。米中通商が速やかに合意する見込みはなく、パウエルFRB議長が「利下げ」の可能性を否定しなかったことやブラード・セントルイス連銀総裁が早急な利下げの必要性を主張したことが、マーケットの楽観論や自信を吹き飛ばしてしまったのです。
一方で、意外なことに、米国の有権者はマーケットとは違って制裁関税を支持する声が強く、トランプ大統領の職務能力支持率は過去2年間で最高のレベルまで上昇しています。トランプ大統領の目的は2020年の大統領選で再選されることなので、支持率が高いうちは政策がさらに激しくなると考えられ、ドル/円の下落余地も広がるリスクがあります。