はじめに
今回のアンケート調査は5月27日(月)~5月29日(水)の期間で行われました。
新元号「令和」と大型連休明けで迎えた2019年5月の国内株市場ですが、月末の日経平均終値は2万601円でした。前月末終値(2万2,258円)からの下げ幅は1,650円を超え、月足ベースでも2019年に入って初めての下落となりました。
あらためて5月相場を振り返ると、月間を通じて米中摩擦の悪化に対する警戒感に覆われる展開が続きました。国内大型連休の終盤に飛び込んできた、米国による対中関税引上げ発表をきっかけに市場のムードは一気に悪化し、連休明けの日経平均は大幅安で反応しました。さらに、中国企業のファーウェイ(華為技術)に対する取引制限が行われたことも不安視され、下値を探る動きとなった。
その後は2万1,000円台を防衛ラインとする攻防がしばらく続いたものの、本格的な反発を促す材料に恵まれず、月末にかけては、不法移民対策を理由に「メキシコに対して制裁関税を課す」とつぶやいたトランプ米大統領のツイートをきっかけに、米中摩擦以外にも政治的要因による景気下押し材料が突如として湧いて出てきたことで不透明感が強まり、結局は2万1,000円台を下回って月間の取引を終えました。
そのような中で行われた今回のアンケートは3,600名を超える方からの回答を頂きました。株式・為替ともに見通しDIが株安・円高方向へと大きく悪化する結果となり、改善を見せた前回の結果から再び先行き不安が強まる格好となりました。
次回も是非、本アンケートにご協力お願いいたします。
日経平均の見通し
楽天証券経済研究所 シニアマーケットアナリスト 土信田 雅之
警戒感が強まりDIは再び悪化
今回調査における日経平均の見通しDIですが、1カ月先がマイナス31.04、3カ月先はマイナス23.66という結果になりました。前回調査の結果がそれぞれプラス0.22、マイナス8.18でしたので、両者ともに大きく悪化させたことになります。3カ月先DIについては昨年10月の調査以来、8カ月連続でマイナスとなっていて、調査開始以来の記録を更新中です。
アンケート実施期間中(5月27日~29日)の日経平均は株価の戻り基調から一転して2万1,000円台割れのせめぎ合いの展開となっていたことも、先行きの不透明感と不安心理を煽った面がありそうです。実際に回答の内訳グラフをみても、1カ月・3カ月先ともに、弱気派と中立派がそれぞれ40%を超え、両者合わせて8割以上を占めていることが分かります。
6月相場も日経平均が2万500円台を下回る軟調なスタートになりましたが、5月からの下落局面の値動きを辿ってみると、2万2,000円台割れから2万1,500円を意識した戻り、2万1,000円の攻防が続くなど、結果的に株価は大きく切り下げてはいますが、様子をうかがいながら下値を探っていて、昨年12月後半に見せたような株価急落の雰囲気は感じられません。適切な表現ではないのかもしれませんが、「市場は意外と冷静に株価下落を受け止めている」印象です。
もちろん、継続的に株価の戻りを試せるような材料に乏しい状況に変わりはなく、先ほどの回答グラフでも強気派の占める割合はかなり減少していますが、実はその値が示すほど今後の相場が崩れるような展開はイメージされていないのかもしれません。
6月も引き続き米中摩擦が相場のムードを抑制しそうですが、これまで相場が崩れてこなかったのは、「米中ともに最悪の事態は望んでいない」という良心的判断と、「政治的決断によって状況が一気に好転するのでは」という期待感です。スケジュール的にも、今月28日にG20サミットが開催されるというタイミングですので、近いうちに何らかの進展があってもおかしくはありません。
とはいえ、関税引き上げの応酬をはじめ、中国企業の華為技術(ファーウェイ)に対する取引制限が実施されるなど状況は着実に悪くなっていますし、事態が進展するという楽観シナリオは、「米国が中国に対して圧力を強める中、中国側が譲歩できるか?」が前提になっています。
今のところ、中国側が米国に対して譲歩の構えを見せる動きは見られていませんし、そもそも、米国がここまで圧力を強めたのは、合意が間近という見方が強まる段階で、いきなり合意文案の内容を3割も削ってきた中国側の対応の変化が発端になっています。
そのため、楽観シナリオに対する期待感はこれまでよりも後退しつつあると考えられますので、6月相場は株価が反発した際に、その戻りの強さが試される局面に入ったと言えそうです。
今月の質問「高配当利回り株!」
楽天証券経済研究所 根岸 美知代
今月の質問は、「高配当利回り株」でした。一押し銘柄、配当目当ての株選びは良いかどうか、またその理由をお伺いしました。
【今月の質問1】配当利回りを目当てに株を買ったことがありますか。
66.6%の方が、配当利回りを重視して投資銘柄を選んだことがあるとお答えになりました。
チーフ・ストラテジスト窪田は、「配当重視はとても良いこと。高配当株は、長期でじっくり投資しやすいから」と述べています。「もちろん、配当より利益成長を重視するという考えも良い」「短期勝負で売買益を狙うのもあり」とも述べています。それぞれの考えがあって良いと思います。
【今月の質問2】:配当利回りを目当てに株を選ぶのは良いことだと思いますか。もし、理由があれば教えてください。
皆さまからいただいたコメントの中に、配当利回り投資の良さと問題点が、とても的確に表現されていました。代表的なコメントをご紹介させていただきます。まず、配当目当ての株選びは良いこと?「はい」派のコメントです。
・「安定した高配当の会社は継続的な資産形成につながる」
・「覚悟を決めてじっくり長期保有するので目先の(株価)上げ下げに振り回されにくくなるかな」
・「日本は金利が低すぎる。銀行預金より格別に良い」
・「企業の経営姿勢が見える・株主還元に積極的」
・「株式投資の本来のあるべき姿は出資して配当をもらうこと・株式投資の基本」
・「(配当利回りが高くなるのは)株価が割安時・(減配が無ければ)株価が下がるとさらに利回りが上がる」
・「銘柄によるが下落局面に強い」
・「NISA口座で5年持てば無税で配当金が入る」
「はい」派のコメントを、ざっくり分類して集計したのが以下の表です。
次に、配当目当ての株選びは良いこと?「いいえ」派のコメントです。ここには、配当重視の問題点が的確に表現されています。
・「減配リスクがある・減配したときの株価の下がりがすごい」
・「(配当より)事業内容が一番大切」
・「株価の動きを見ることの方が重要」
・「(配当をもらう)権利落ち日に株価が大きく下がることがある」
以下が、「いいえ」派のコメントを、ざっくり分類した集計です。
最後に、「わからない」と回答された方のコメントをざっくり分類しました。
【今月の質問3】:配当利回りの良いおすすめ銘柄をひとつだけ教えてください。以下が回答の集計20位までです。
皆さま、おすすめ銘柄を挙げていただきまして、ありがとうございました。
為替DI:貿易戦争拡大を懸念、「円高見通し」増える
楽天証券FXディーリング部 荒地 潤
楽天DIとは、ドル円、ユーロ円、豪ドル円それぞれの、今後1ヵ月の相場見通しを指数化したものです。DIがプラスの時は「円の先安」見通し、マイナスの時は「円の先高」見通しを意味します。プラス幅(マイナス幅)が大きいほど、円安(円高)見通しが強まっていることを示しています。[図-1]
「6月のドル/円は円安、円高のどちらへ動くと思いますか?」という質問に対して、5月末の水準(109.15円)よりも「円高」になるという予想が最も多く、全体の約44%を占めました。「円安」予想は約21%。残りの約35%は「動かない(わからない)」という回答でした。 [図-2]
円安見通しから円高見通しを引いたDIは▲23.31で、2カ月ぶりにマイナス(=円高見通し優勢)に転換。
今回のアンケート締切後にドル/円はさらに円高に進んでいます。投資家の円高見通しはさらに強まっていると考えます。
5月のドル/円は3日につけた111.69円が高値で、その後は緩やかに円高に推移しました。ところが月末31日になって急に勢いが強まると4カ月半ぶりの安値となる108円台へ急落。6月に入っても下落は続き107円台で取引されています。
円高の引き金は、米中貿易摩擦のエスカレートです。トランプ大統領がツイッターで2,000億ドル分の中国製品の関税を25%に引き上げを発表したのは5月5日。ファーウェイ製品使用禁止の大統領令に署名したのが15日。さらに5月31日には突然メキシコに対する関税引き上げを発表しました。
楽天DIでは3月に米中貿易摩擦の特集を組んだのですが、その時のアンケートでは、回答者の9割以上が、米中貿易協議は「合意できない」あるいは「合意できても対立構造は続く」と予想していました。残念ながらその通りの結果となったわけです。
それでもまだマーケットは楽観的な考えを捨てきれず、たとえ合意できなくても、米国経済は大丈夫という自信がありました。貿易摩擦が深刻化していくにもかかわらず5月のドル/円がそれほど下がらなかったのは、それが理由だったのでしょう。
ところが、トランプ大統領がメキシコに対して行ったように、すべての問題を制裁関税で解決しようとする強引な戦略を見て雰囲気が変わってきました。米中通商が速やかに合意する見込みはなく、パウエルFRB議長が「利下げ」の可能性を否定しなかったことやブラード・セントルイス連銀総裁が早急な利下げの必要性を主張したことが、マーケットの楽観論や自信を吹き飛ばしてしまったのです。
一方で、意外なことに、米国の有権者はマーケットとは違って制裁関税を支持する声が強く、トランプ大統領の職務能力支持率は過去2年間で最高のレベルまで上昇しています。トランプ大統領の目的は2020年の大統領選で再選されることなので、支持率が高いうちは政策がさらに激しくなると考えられ、ドル/円の下落余地も広がるリスクがあります。
今後、投資してみたい金融商品・今後、投資してみたい国(地域)
楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト 吉田 哲
今回は、毎月実施している設問「今後、投資してみたい国(地域)」で、“インド”および“日本”と回答したお客様の割合に注目しました。(5月の調査は2019年5月27日~29日に実施 当該設問は複数回答可)
図:設問「今後、投資してみたい国(地域)」で、“インド”と“日本”と回答したお客様の割合
上記のグラフのとおり、2019年5月の調査でインドが日本をはじめて上回りました。2019年5月の調査で日本を選択した人の割合は34.60%、インドが36.36%でした。全体のランキングでは米国が49.33%で1位、インドが2位、日本が3位です。(下部表参照)この5月、インドの割合の上昇と日本の割合の低下によって順位が逆転したわけです。
日本の割合の低下は、昨年の11月頃から顕著になっています。これは昨年10月初旬に発生した世界同時株安、その後の米中貿易戦争の激化による株安が原因だと考えられます。
一方、インドは、下院総選挙でモディ首相率いるインド人民党が圧勝し、2期目となった同首相のもとで経済成長が期待されること、インド準備銀行が今年2回目となる利下げを実施しており、景気回復が期待されることなどで足元、割合の上昇が目立っています。
今回の調査で、日本とインドの順位の逆転が起きた訳ですが、今後もこのまま日本3位、インド2位が定着するのでしょうか?それとも再度逆転し、日本が2位に返り咲くのでしょうか?その動向はやはり、日本株がどれだけ浮上するかにかかっていると筆者は考えます。
引き続き、設問「今後、投資してみたい国(地域)」で、“インド”および“日本”と回答した人の割合に注目していきたいと思います。
執筆者の連載
●シニアマーケットアナリスト:土信田 雅之「テクニカル風林火山」
●FXディーリング部:荒地 潤「毎ヨミ!為替Walker」
●コモディティアナリスト:吉田 哲「週刊コモディティマーケット」
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