先週からの為替相場の振り返り        

 先週10月17日、米国財務省が半期に一度、4月と10月の中旬に米議会に報告している「為替報告書」が公表されました。為替報告書は、貿易相手国の為替政策を分析し評価した報告書です。

 トランプ米大統領は中国を「為替操作国である」と認定することを、2016年の大統領選で公約として掲げていたため、今回の為替報告書に注目が集まりましたが、認定は見送られました。

 一方、日本に対しては、今後の通商協議にかかわる「為替条項」との関連で注目されていましたが、やはり指摘がありました。為替条項とは、為替介入を含む自国の通貨安誘導を防ぐ取り決めです。

 今回の報告書では、日本や中国に対して「為替監視継続」という従来の方針踏襲という結果であったため、ドル/円相場への影響もほとんどありませんでした。

 先週のドル/円は112円を割り込んだものの、111円台の滞空時間は短く、欧州の要因によってユーロ/円やポンド/円に振らされる局面もありましたが、先週の1日の値幅は連日1円以内と比較的穏やかな相場展開となりました。

 

日中に圧力強める指摘事項

 しかし、為替報告書の指摘事項については留意しておく必要があります。

 現時点での米国財務省の日本や中国の為替についての考え方がしみ出ており、そのことを知ることは今後の相場シナリオを想定する上で役に立ちます。

 また、次回「為替報告書」が公表される来年2019年4月にもマーケットの話題となるため、比較する上で今回の報告結果をきちんと理解しておくことが重要です。

 為替報告書では、貿易相手国の為替政策を分析し、米国への輸出を増やすために為替介入などで通貨安誘導を行った場合は「為替操作国」として議会に報告し、制裁を発動します。

 為替操作国の認定に当たっては、次の基準を考慮していますが、今回はいずれの国や地域も認定しませんでした。

為替操作国の認定条件     

a. 対米貿易黒字が200億ドル以上

b.経常黒字がGDP(国内総生産)の3%以上

c.一方的、継続的な為替介入

 一方で、為替操作「監視リスト」の対象とした国は、4月に続き、日本、中国、韓国、ドイツ、スイス、インドの6カ国となります。

 監視リストは為替操作国に認定する前段階として、2016年4月に設けられました。すぐに制裁するほどではないにしても、貿易相手国の通貨安誘導を抑える狙いがあります。

 監視リストの対象国となるかどうかは、上記の3条件を判断して認定されますが、日本と中国に当てはめると、表のようになります。

表:認定基準と日本・中国の状況

 

 これらの分析を踏まえ、日本に対しては次のような評価と指摘が示されました。

(1)認定条件abの条件に抵触したが、cの為替介入については、「ほぼ7年、為替市場に介入していない」として為替操作国に当てはまらないと判断

(2)ただし、日本の対米黒字に関し、「巨額の貿易黒字に懸念している」と表明

(3)円相場については、日銀の黒田総裁が就任した2013年以降の円相場が「歴史的安値圏で推移している」と指摘し、長期にわたる円安に強い懸念を表明。ただ、最近の円相場については、「対ドルでは今年9月末時点で前年比0.7%下落したが、比較的安定している」との評価

(4)NAFTA(北米自由貿易協定)に代わる新しい北米貿易協定に盛り込まれた「為替条項」に触れ、「将来の貿易協定で、同様の考えが盛り込まれることが適切と考える」と指摘

 一方、中国についての評価や指摘は、

(1)認定条件に抵触したのは巨額の貿易黒字を出しているaのみで、cの為替介入についても、中国による直接的な市場介入は「限定的」と評価

(2)しかし、人民元は6月以降7%超下落していることを受け、ムニューシン米財務長官は声明で、「中国の為替の透明性の欠如や人民元安を特に懸念している」と強調し、「6カ月かけて再審査する」と中国への牽制を強化

 以上のように、日本や中国は為替操作国とは認定されていませんが、引き続き「監視リスト対象国」としています。

 特に日本に対しては、前回に引き続き円相場が歴史的な円安水準にあるとの警戒感を示し、来年2019年1月からの日米通商協議では、通貨安誘導を封じる「為替条項」を求めてくる可能性があることがはっきりしました。

 円の水準は比較的安定しているという評価だったものの、現在の112円が続くとすれば、半年後の4月時点では前年比(2018年3月末106.27円)で5%強の円安となります。米国にとっては無視できない円安となる可能性があります。

 一方、中国に対しては、引き続き為替政策を注視していくと強い姿勢を示しています。

 今回は中国を為替操作国として認定しませんでしたが、巨大な貿易黒字が減らず、元安が続くのであれば、半年後再びマーケットの話題となってきます。

 今後も「為替報告書」の発表がある4月中旬、10月中旬に、これらの話題が再び蒸し返されることを留意しておく必要があります。