850万円がピーク!?年収と幸福感の相関性

 札束を数えるだけで安心するように、人間がお金に対して絶対的な信頼を寄せるのは、今に始まったことではありません。

 例えば古代ローマ時代には、アウレウス、デナリウスといった通貨が存在していましたが、これらはキリスト教国家であるローマ帝国のみならず、近隣のイスラム国家などでも流通していました。当時、異教徒の文化や習慣を受け入れるのは簡単なことではありません。でも通貨だけは別だった。お金は国家や人種、宗教、文化などを超える、唯一、不変の信頼システムなのです。

 お金は好きなものを買えるし、ぜい沢ができる。それだけではなく、信頼システムとして存在し、お金で精神的な安定も得ている。

 お金で精神の安定を買えるなら、稼げば稼ぐほど幸せになれると考えるかもしれませんが、実はそうとは限りません。ここに落とし穴があります。
一生懸命働いて年収が倍増した。ところが、満足感も充足感も得られなかったということが往々にして起こります。

 このことは経済学者がはっきりと指摘しています。

 米国の経済学者・リチャード・イースタリンは、1974年に「お金と幸福の逆説的な関係」という論文の中で、「貧しいときには収入が増えると幸福感が増す。しかし、年収が一定レベルに達すると、それ以上収入が増えても幸福感は変わらない」と発表しました。これは「イースタリンのパラドックス(逆説)」と呼ばれます。

 さらに2010年にも米国の経済学者であるダニエル・カーネマンが、「年収7万5,000ドル(日本円にすると850万円)を超えたあたりで幸福感の増加はストップする」と具体的な数字を挙げて主張。年収が300万円、400万円、500万円と増えていくと生活レベルが向上し、幸福感を感じるものですが、ある地点にたどり着くと自分の願望はほとんど叶えてしまうので、幸福感は薄れていくというものです。

 では、私たちにとって「幸福」はどんなときに得られるのでしょうか。一つ確実なのは、いくら稼ぐかよりも、どのように使うかが大事だということです。

 どんなにお金を稼ぐ方法を知っていても、正しいお金の使い方を知らないと決して幸福にはなれません。だから、ガンガン稼いでいるのに満足感も充足感も得られないという人は、自分がどのようにお金を使っているのかを一度見直してみるべきなのです。