厚生労働省社会保障審議会に「確定拠出年金の運用に関する専門委員会」というものがありますが、2月14日に初開催された委員会において委員に任命されました。
この委員会、すでに法律改正が行われながら、詳細において未定部分がある項目(政令等で別途定める必要がある)について検討を行う目的で設置されたものです。このうち「運用商品の本数について上限を定める」という議論があります。
一見すれば、「選択肢が多いのは正義」というのが当たり前の発想でしょう。しかし、あえて上限を課すということには意味があります。それはなんとなく投資を行う普通の人にとって有意義なことなのです。
iDeCoの運用商品数はなぜ少ないのか
楽天証券の取り扱い投資信託数は約2,400本です(執筆時点)。一般に銀行の窓販等では数十本程度のラインナップにとどめ、ネット証券では数千本の取り扱いとし、両者のアプローチは対照的です。
相対的に投資理解度の低い個人顧客を対象に、対面営業で説明トークを行いながら商品販売を行う銀行等では商品数を少なくせざるを得ません。顧客の理解度はもちろん、販売者の商品理解度を高めるためには商品数を絞り込む必要があるからです。
一方、ネット証券は顧客の金融リテラシーに期待できること(リテラシーが高くなければネット証券の口座開設をしないでしょう)、多様な選択肢を提供することが選択の自由度を増すこと(と同時に他の証券会社に資産を移さずに投資を継続できること)から、商品数を多く提供してきました。
ところが、楽天証券のiDeCoで取り扱われる金融商品は定期預金1本と投資信託27本です。理屈としてはすべての投資信託を選択対象としてもいいわけですが(NISAではこういう絞り込みはしなくてもいい)、あえて30本以下に厳選していることになります。
都銀や地銀、生保等と近い水準のラインナップにしていることにはもちろん理由があります。
多すぎる選択肢はむしろ思考停止になるリスクも
投資の経験が豊富な人にとっては、基本的に選択肢の増加が好ましい投資条件になります。しかし、投資の裾野が広がっていく中で、投資経験の浅い人も投資にチャレンジするようになってきたとき、選択肢があまりにも多いことは必ずしも合理的行動につながらないことは明らかになっています。
厚生労働省社会保障審議会確定拠出年金の運用に関する専門委員会の第一回資料では、シーナ・アイエンガーの「選択の科学」を引用して、商品本数の増加が投資の非合理的判断につながることを指摘しています。
これによれば、アメリカの401(k)プランにおいて運用商品が10本増えることは株式にまったく投資しない人を2.87%増やす傾向があり、投資を行う人の投資方針においても株式投資比率が3.28%低下する傾向を伴ったというのです。
行動ファイナンスでは「情報過多・選択肢過多」の状態が「行動回避」につながるという傾向が指摘されていましたが、まさにその非合理的行動を証明するかのような結果になっているわけです。
人気ランキングで投資商品を決めることは長期投資向きではないかも
選択肢が多い場合、これをサジェスチョンする機能で補うアプローチも考えられます。iDeCoにおいては超長期投資が想定され、またその間の売買頻度はきわめて低くなることが見込まれますので、こうしたアドバイス機能には期待がされるところです。
このとき、「売買人気ランキング」のような絞り込みは「今」の人気トレンドを示してはくれても20年の継続投資先を選ぶにはあまり適していません。「みんなが買っている」が「いいものである」と考えたい気持ちは分かりますが、ロジックとしては弱いものです。
また、ロボアドバイザー(AI)等を活用した投資助言のアプローチには期待されますが、投資助言業にあたるアドバイスをiDeCoの運用にどうやって介在させていくか、また具体的な売買を伴う投資一任までどのように行っていくかは難しい問題です。費用負担が生じることも避けられないでしょう。
(厚生労働省は投資助言レベルまでは環境整備をする意向があるようだが、パブリックコメントの反応をみて一度取り下げている過去があります)
となると、商品数そのものを減らして判断を容易にするのはそれほど悪くないアプローチといえます。
投資経験者も商品数を抑えた中で好みの運用は可能
投資初心者だけではなく、投資の経験者においても商品数の厳選はそう悪いことではないと思います。
iDeCoの投資はリスクを高く取り、売買頻度を増やす方法に適していません。そもそもリアルタイムトレードができない(投資信託ベースなので)からです。レバレッジもかけられなければ、売りから入る信用取引もできません。そうすると、アセットミックスを意識し、アセットクラスごとの市場平均リターンを確実に得ていく運用に向いています。
この場合、多様な商品を提示するより、低コストのパッシブ運用のファンドがしっかり採用されていれば十分です。「iDeCo内はパッシブ」「iDeCo外(NISA含む)は積極的な運用」のように使い分けてみれば、資産全体でのリスク管理は個人の好みにきちんとアレンジできるはずです。
もちろんiDeCoの場合は、好きな金融機関を選択する自由もあるので(企業型DCは会社がひとつの金融機関を決めて選択の余地がない)、好みのアクティブファンドがあれば、それを採用している金融機関でiDeCo口座を開設することも可能です。このあたりは各社の「厳選」の腕の見せ所といえるかもしれません。
今後の議論で「上限本数」が決まってくる
ところで、「上限本数」はまだ具体的に定まっていません。楽天証券の提示本数くらいがセーフになるのか、もっと少ないところに絞ってくるのか、はたまたもっと多いところに基準を設けるのかは現状では不明です。
法政策的には、20本以下に絞り込みたいところでしょうが、ここから業界関係者や企業の現場へのヒアリング等が行われ、そう簡単に少ない数字で落着しそうにありません。
企業型DCとiDeCo(個人型DC)で上限本数を別途定めるかもまだ未定です。初回のフリーディスカッションでは「別でいいんじゃない」という雰囲気でしたが、これも今後の議論で決まっていきます。
私は個人的意見ももちつつ、いろんな人の意見も伺いつつ、議論に参加していきたいと思っています。一般傍聴も可能なので、厚生労働省のホームページで更新をチェック、興味がある方は申し込んでみてください。当日配付資料は基本的に同日公開、議事録も後日公開されています。
→厚生労働省 社会保障審議会(確定拠出年金の運用に関する専門委員会)