5円刻みでドル/円のレンジを想定

 先週金曜日に1ドル=105.55円をつけたドル/円は、週明けの米国市場が祝日であったこともあり、市場は落ち着き、107円台に戻しています。

 しばらくは円高一服になりそうですが、昨年2017年の安値(※)107.32円を下抜けたことから、ドル/円は新しいレンジに入った可能性があります。新しいレンジとは、105~110円のレンジです。

※「安値」はドルの安値のこと。為替取引の中心通貨はドルのため、ドル/円の場合、ドルを中心として高い、安いと用いるのが為替市場の慣例。プロのディーラーやエコノミストほど世界の慣例による解説や文章が多いが、日本の新聞やニュースでは、「高い、安い」「上がる、下がる」は円を中心として表現されているため、読み替えが必要になる。

 昨年2017年の高値は118.60円、安値は107.32円で、年間変動幅は11.28円でした。

 しかし、1月に高値をつけた後に115円を下回ってからは、ドル/円はほとんどの期間を110~115円の間で動いていました。ときどき、110円割れの場面もありましたが、2017年の中心ゾーンは110~115円だったと言えます。

 今年は、昨年の安値107.32円を下抜け、105.50円まで売られたことから、105~110円を中心としたレンジに入ってくるのでしょうか。

 ドル/円は、このように5円刻みでレンジを考えることが多い通貨です。居心地のよいレンジはどこか、探りながら動いているようです。

 また、115円、110円、105円などの節目は、心理的に大きなポイントとなり得ることが多いです。心理的な節目とは、そのポイントで円安が止まるのではないかとか、そのポイントを抜ければ、円安が加速するのではないかと、マーケット参加者の注目度合いが高まるポイントのことです。そして節目前後で売買が活発になります。

 たとえば昨年なら、115円を抜ければ、円安がさらに進んで120円に、との期待が高まりましたが、115円を超えることはありませんでした。一段の円安を期待する以上に、115円手前で売りたいという投資家や、実需筋が多かったことを示しています。
逆に円高局面ではどうだったでしょうか。

 110円を抜ければ、105円方向に円高が進行するという見方もありましたが、米景気の好調を反映した米株の上昇や、米国の中央銀行であるFRB(米連邦準備制度理事会)の数回の利上げという環境から、110円以下は買いたいという投資家や実需筋が多かったようです。ドル/円は105円方向には行かず、110円以上に押し戻される相場となっていました。
この5円刻みは、5円幅という値幅で動くことがあります。

 今回の円高局面がそうです。円高の第1波は113円台半ばから108円台半ばの約5円。108円台から110円台半ばに戻された後、第2波の円高局面では、110円半ばから105円半ばで約5円動いています。

 たとえば、もし戻り局面で昨年の安値107.32円に近づくが完全に抜け切らなければ、そこから5円幅の円高の第3波という想定ができます。その場合、目安は107円台半ばから5円円高の102円台半ばということになります。

インフレリスクの台頭で米長期金利上昇

 今回の円高の背景として、(1)日銀の出口戦略、(2)米国の保護主義、(3)米国のインフレリスクの台頭で、長期金利が上昇、株価急落した点が挙げられます。
さらにここへダメ押しとして、2月15日の麻生太郎財務相の発言がありました。大臣は「特別に(為替)が介入しなければいけないほど、急激な円高でもなければ円安でもない」と述べたことから、政府が円高を容認したとの見方が広がり、ドル/円は106円台後半から円高に動きました。

 ただ、現時点で政府が円高を容認することは考えられないため、反応は一時的になりました。

 さらにこれらの円高要因を検討してみます。

(1)日銀の出口戦略

 新布陣が決まったことから当面は金融緩和継続が予想されるため、日銀も今回の教訓を生かして市場との対話には慎重になるだろうと想定されます。したがって、円高要因としては、しばらくは弱まることが予想されます。

(2)米国の保護主義

 米国が自由貿易のメリットを失い、米経済に悪影響を与える可能性があり、ドル安要因となり得ます。加えて米貿易赤字を改善したいため、米政府筋からドル安を望む発言が繰り返される可能性があります。これもドル安要因となります。
また、米中貿易戦争を米国が過熱させれば、中国は報復ないし(けん制)のため、米国債を縮小、もしくは売却するのではないかとの見方や憶測が蒸し返される可能性があります。これは、長期金利上昇要因であり、ドル安要因でもあります。

(3)インフレリスクの台頭

 強気の見方が広がっていますが、ニューヨーク連邦銀行や、ミシガン大学が予想した1年後のインフレ期待指数は上がっていません。消費者にはまだ、インフレ期待が及んでいないことを示しているようです。したがって、今すぐインフレが加速する段階ではなく、今後のインフレ指標を見極めながら、判断していく必要がありそうです。

 

米国にとって都合の悪い長期金利上昇

 これらの要因の中で、(3)のインフレリスクの台頭が最も気になる点です。
インフレリスクの台頭による米長期金利の上昇は、好調な米景気が背景にあり、よい金利上昇です。しかし、長期金利が上昇したにもかかわらず、ドル安になったことは気になる点です。ドル安になったのは、税制改革やインフラ投資によって、米財政赤字拡大懸念が高まったからと言われています。

 つまり、財政赤字拡大は長期金利を上昇させ、株安を伴いながら米国資産価値が減価することであり、減価する米資産は売られるため、ドル安をもたらすという見方です。いわゆる米国にとって悪い金利上昇です。

 前述した中国の動きも、長期金利を左右する動きとして気になるところです。

 

金利高、株安のドル安局面が再び?

 現在のドル/円は、105.55円から反発し、107円台前半に戻していますが、株式市場が落ち着けば再び110円以上の円安に戻るのでしょうか。それとも新しいレンジの105~110円に収まっていくのでしょうか。秋の米中間選挙を控えて、インフラ投資など大風呂敷を広げすぎると、財政赤字拡大懸念が高まり、金利高・株安のドル安局面が再び襲ってくるかもしれません。

 また選挙戦を控えて保護貿易主義を強く出しすぎると、ドル安の連想や中国の対抗手段(米国債)を連想させ、金利高、ドル安になるかもしれません。
米国政権や議会が、あまりにも国内に目を向けすぎると、次の悪循環に陥る可能性が考えられます。

悪い長期金利上昇 → 株安 → 逆資産効果による景気減速懸念 
→ FRBの利上げペース鈍化 → ドル安

 この場合、ドル/円が110円以上に戻りきらないまま、この局面を迎えれば、中心レンジはさらに切り下がり、100~105円になるかもしれません。
米国のインフレリスクだけでなく、米政権や議会の内向き姿勢にも注目していく必要がありそうです。